【宇垣美里・愛しのショコラ】ザッハトルテはキングオブチョコレート/第6回
公開日:2020/7/3
本場のザッハトルテを食べたことがある。私の小さな自慢のひとつ。もう6年も前、卒業旅行で訪れたウィーンでのことだ。そこには唯一“オリジナル”を名乗ることが許されたザッハトルテがあった。大学生といえど、今に勝るとも劣らぬチョコレート狂いだった私は、甘いものが苦手だという同行者に土下座する勢いで頼み込んで旅程表に組み込んだ。当時の日記を読み返し、あの頃の感動をもう一度再現してみよう。
“カフェ・ザッハー”
ちょうどオペラ座の裏手にある5つ星ホテル「ホテルザッハー」の1階にあるその店は、正面玄関のすぐ隣に専用の入り口がある。入ってみると、さすが5つ星。ふかふかの赤い絨毯にキラキラ輝くシャンデリア、豪華なのに落ち着いていて、そのクラシカルな装いに思わずうっとり。なにより店の奥の壁に掛けられていた肖像画に目を奪われてしまった。きっとシシィに違いない! 見れば見るほど、大好きなミュージカルの演目「エリザベート」の世界そのままな内装に、もはや涙腺が緩んですらいた。
ずっと見ていたい気持ちをどうにかなだめて席に座る。机に置いてあるメニュー表はおしゃれな新聞かファッション誌のよう。もちろん、注文は決まってる。
“ザッハトルテ“ ドリンクには女帝の名を冠した「マリア・テレジア」を選んだ。
チョコレートスポンジにアプリコットジャムを挟み、上からチョコレートでコーティングされたオリジナル・ザッハトルテ。封蝋のような丸いチョコレートプレートがちょこんと乗っている。かわいい。よく見るとスポンジは2段に別れていて、その間にもアプリコットジャムの層が挟み込まれている。このアプリコットジャムの甘酸っぱさがたまらない! しっとりと重めのスポンジによくなじんで、甘いんだけど甘すぎない。コーティングされたチョコレートは濃厚で薫り高く、一緒にとろけてしまいそうになる。要素だけ見ると盛り盛りすぎのような気がするのに、食べるとなぜだかまとまりがあって上品だ。ちょっと舌が疲れてきたら、添えられているふわふわのホイップクリームに手を伸ばす。ケーキのサイズと同じくらいに盛られたその量に最初は圧倒されてしまったけれど、口に運ぶと滑らかで、むしろケーキよりもさっぱりしていてしつこさは一切ない。このクリームならきっと永遠に飽きが来ない。お口直しにぴったりだ。この量は妥当。ケーキと一緒に口に運ぶとよりマイルドになって私好み。