あまりに夢中で食べてしまっていたことに気が付き、忘れていたドリンクに手を伸ばす。ショコラの香りのするコーヒーにたっぷりのクリーム、仕上げにちょんと半月型のオレンジが乗っている。透明なグラスに盛られているのも相まって、なんだかパフェみたい。多分甘いんだろうなあ、なんて思いながら一口飲み込めば、オレンジの香りと共に流れ込んできた大量のアルコールに喉が焼け、目を白黒させてしまった。コーヒーではなかったのか？さすが女帝。慌ててまたケーキを口に運ぶ。ふう。カッと熱を持った口内にじんわりと広がるザッハトルテの上品な甘さといったら。気づけば、口いっぱいに広がるケーキの濃厚な甘さをマリア・テレジアのアルコールで一掃し、またフォークを進める……という流れが生まれてしまった。なんという永久機関。一生食べ続けられてしまう。ザッハトルテが有限でよかった。

　お土産にホールでザッハトルテを買って帰った。木箱に入って、まるで宝物みたいなそれを、日本に帰ってからゆっくり、ちょっとずつ食べた。現地で食べたときより少し甘めだったけれど、一口含めばすぐに心は音楽の都へ飛んでいける。あんなに美味しいザッハトルテは人生でそうそう出会えない。オリジナル・ザッハトルテはチョコレートケーキの王様にふさわしい。

撮影＝中村和孝(まきうらオフィス)／ヘアメイク＝AYA(LA DONNA)／スタイリスト＝小川未久（宇垣さん衣装）、片野坂圭子（雑貨）／編集協力＝千葉由知(ribelo visualworks)

衣装協力＝ココシュニック
(アクセサリー/https://store.world.co.jp/s/brand/cocoshnik/)

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