読み始めれば飲みたくなる? 大人が知っておきたい「日本酒」が今海外で大注目される理由
公開日:2020/6/27
今や日本酒は、世界中で愛されるお酒になった。英語圏では「SAKE」として親しまれており、米や水、麹を原料とする日本ならではの味わいは、海外の食通たちの舌もうならせている。
日本酒の蔵元が所属する業界団体・日本酒造組合中央会の発表によれば、2019年度の清酒輸出総額は前年比5.3%増の約234億円で、10年連続で過去最高を更新。海外からいかに注目されているかも伝わる。近年では海外で現地の人びとが蔵元となって日本酒を生産するケースもあるという。
アメリカ・ニューヨークで日本酒バーをはじめ複数の飲食店を経営し、現地での「日本食ブーム」を黎明期から支え続けてきた八木・ボン・秀峰さんの著書、『世界のビジネスエリートが大注目! 教養として知りたい日本酒』(PHP研究所)は、そんな日本酒の魅力を伝える1冊。50種類にも及ぶさまざまな銘柄の日本酒の特徴やその逸話を学ぶことができる。
純米大吟醸・最高峰のお米にこだわる「獺祭」。人気の理由は
例えば、山口県の旭酒造が手がける「獺祭(だっさい)」は、街中の居酒屋でもよくみかけるようになった銘柄だ。海外でも知名度は高く、その要因には「ブランディングの勝利」があったと本書は解説する。
じつは、獺祭には高級酒の代名詞ともいえる「純米大吟醸」しかなく、なおかつ、酒米も最高峰とされる「山田錦」しか使われていない。明和7(1770)年から続く蔵元の旭酒造は普通酒も製造していたが、獺祭が誕生した1990年以降、その売れ行きをみて2004年からは、純米大吟醸の獺祭にすべてを託した。
原材料にもこだわりがみられ、使用されているお米は山田錦の本場・兵庫県で最高級にランクされる「特A地区」で生産された品種。今や、海外への輸出が「全体の25%」を占めるほど世界的に支持されるようになっている。
昭和の地酒ブームをリードした「越乃寒梅」
古くから「幻の酒」ともいわれるのが、新潟県の石本酒造による「越乃寒梅(こしのかんばい)」である。本書によると、その名は「初春の残雪の中、寒さに堪えりんとした美しさを魅せる梅の花に志を重ねて」という思いが由来。昭和の地酒ブームをリードした存在ともいわれる。
著者いわく「どんな料理も受け入れてさりげなく引き立てて、しかも飲み手に寄り添うような飲み心地」が特徴で、ブームの引き金になったのは、1997年にやむなく休刊となった雑誌『酒』の編集長・佐々木久子さんが「幻の酒」として紹介したことだったという。
普通酒の「白ラベル」や吟醸酒である「特撰」や「別撰」、純米大吟醸の「無垢」や「金無垢」など、ラインナップもさまざま。時代を超えてなお、明治40(1907)年の創業以来受け継がれる蔵元のこだわりを口いっぱいに味わえる。
経営統合で「日本一の蔵」を目指した有名ブランド
スパークリングの清酒「すず音」が人気の「一ノ蔵」は、宮城県の蔵元・一ノ蔵が手がける一大ブランドだ。今や、ひとつのカテゴリとして認知されている「スパークリング日本酒」を広めた、パイオニア的存在としても知られる。
昭和48(1973)年に設立された一ノ蔵は、同県内の4社が経営統合して設立された。各社が共に手を組み合うと共に「日本一の蔵(オンリーワン)を目指す」という意味が社名に込められ、合併に至った背景には「(地元の)恵まれた環境と共生して酒造りを行う」とする4社に共通する熱意があった。
先述のスパークリング「すず音」のバリエーションも目立つが、著者が蔵元の「先進性に出会った」と太鼓判を押すのが長期熟成酒の「Madena(までな)」だ。アルコール度数が比較的高めのワイン「マデイラワイン」の製法を日本酒に応用したもので、和洋折衷の味わいを楽しめる新進気鋭の日本酒として知られている。
本書ではこの他にも「浦霞」や「菊水」など、居酒屋や酒売り場など身近でよくみかけるような日本酒についてのエピソードが数多く収録されている。読んでいるだけだとついつい口元が寂しくなってくるのだが、さまざまな銘柄をより深く知ってから飲めば、その味わいはさらに増すはずだ。
文=カネコシュウヘイ
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