「うつ病はただの病気なのになぜ周囲に打ち明けにくい?」――自死も試みた著者が語る“うつ病”のリアルとメッセージ
更新日:2020/7/5
2019年7月から2020年2月にかけて「ダ・ヴィンチニュース」で連載されていた作品『マンガでわかるうつ病のリアル』
(https://develop.ddnavi.com/serial/manga_utsu/)
が、描き下ろしマンガを大ボリュームで追加して書籍化されました。
20代のOLでうつ病をわずらった主人公・夢(ろまん)と、友人であり心身ともに健康な璃杏(りあん)。そして、彼女たちの案内役をつとめる、妙にうつ病にくわしい夢のペット・まるが登場するマンガや、みずからもうつ病の苦しみを味わった著者・錦山まるさんが伝える内容には、ネット上でもたくさんの共感が寄せられていました。
連載や本書の制作時には「数年前、深刻なうつ病に陥った自分と似たような人たちを思い浮かべていた」と明かしてくれた著者に、作品へ込めた思いやみずからの体験を語っていただきました。
【連載第1回はこちら】【真相】君ホントにうつ病?/『マンガでわかるうつ病のリアル』
うつ病当事者が声を上げづらいことで悪循環が起きている
――プロ漫画家を目指し上京してから数年、24歳でうつ病の診断を受けたと経歴を拝見しました。当時、SNSで情報発信を始めたのが今の活動にも通じているようですが、そうした啓蒙活動を始めたのはなぜだったのでしょうか?
錦山まるさん(以下、錦山):回復を目指して生活をしていく中で、周りの人へ「自分がうつ病である」と伝えるのは勇気が必要だと感じたからです。自分自身が体験したから分かるのですが、単純に考えればただの病気なのに、打ち明けるのが難しいことに対して違和感をずっとおぼえていました。
――日常生活では、どういった場面で実感されていたのですか?
錦山:僕の場合は、当時通っていた格闘技ジムで味わっていました。他のレッスン生からさりげなく「お仕事は何をされているんですか?」と聞かれる場面もあったのですが、うつ病を隠して言葉を濁そうとするほど、説明がややこしくなり伝わらないこともあったんです。
書籍でも伝えたのですが、自分から伝えづらかったのは「体を鍛える業界の人はそんな病気にはならない」といった“根性論”がまかり通っている空気も感じていたからだと思います。それがきっかけになり、当事者にしか分からない経験を伝えれば、将来の自分や誰かが生きやすくなると考えたので今のような活動を始めました。
――世間的に精神科病院の「閉鎖病棟はヤバい場所」と思われがちな面など、うつ病の治療についての偏見や誤解にも書籍では言及されています。そうしたすれ違いが起きる理由を、どのように考えられていますか?
錦山:社会全体として、理解が広まらない“悪循環”が起きているからだと思っています。先ほどは僕自身の経験も語りましたが、知識自体が広まっていないことに加えて、僕のような当事者が声を上げづらくなっている現状があるから、巡り巡って自分たちの首を絞めてしまっているのもあるのだろうと感じています。
うつ病だった当時は絶えず「死にたい」と考えていた
――うつ病をわずらっていた当時、具体的にはどういった症状に苦しんでいたのでしょうか?
錦山:挙げればキリはないのですが、治療を続けながらも日常的に「死にたい」と思う瞬間はしょっちゅうありました。書籍でも、僕らのような人と健常者にとっての「死にたい」がどのように違うのかを表現するのは苦労したのですが、僕の場合は夜の方が「死にたい」と思うことが多く、実際に自死を実行したこともあります。
ツイッターのDMでも読者のみなさんから“死”についての悩みが寄せられることもあり、「周りに迷惑をかけているだけで何のために生きているのか分からない」「家族からも理解されず休めないから死んだ方がマシ」といった声も目立ちます。
――自死を選ぶも一命をとりとめて、現在は精力的に活動されています。そんな今、周りの方をみて「過去の自分と似ている」と思われる瞬間はありますか?
錦山:自分がうつ病をわずらっているのに、無理をして同じ境遇にいる他の方の力になろうとしている人をみると心配になります。僕自身もうつ病に悩まされていた当時、SNSのコミュニティなどを通して似たような経験をしていました。
――連載や書籍は当事者やその周囲の方々に寄り添うような印象でしたが、実際にうつ病で苦しんでいる方と接する場面では、どういったことを意識されているのでしょうか?
錦山:自分から「解決策を提案しないようにしよう」と心がけています。それは、経験者ではあるものの、僕自身が医師や専門家ではないからです。書籍でも改めて、ネットでもよくみかける「◯◯すればうつ病治るよ!」といった民間療法の危険性を主張したのですが、やはり解決策を示して良いのは専門家のみだと考えているので、僕の立場ではじっくりと話を聞いて「大変でしたね」「それは辛いですね」と相手の感情に寄り添うようにしています。
娯楽と教養の両立を目指した書籍が、言語化の手助けになれば
――うつ病をテーマにした書籍でいえば、専門家による解説書も数多く出版されています。さまざまな書籍がある中で、今回の書籍ならではの特徴を教えてください。
錦山:経験者だからこそ分かる日常の“あるある”はもちろん、娯楽と教養の両立は制作中に意識していました。サイトでの連載当時も、思考力が落ちて段取りを考えるのがつらく、さらに体力も落ちて風呂で全身を洗ったり湯船の温度変化に耐えるのがつらくて「お風呂に入れない」といった話や、うつ病の女性が生理のつらさとうつ病のつらさが重なりつらさが倍増して苦しい、といった話に対してたくさんの反響をいただきましたが、僕自身の経験談を交えつつも、誰かの自伝でもなければ、淡々と説明が繰り返されるような1冊にはならないよう努めました。
――最後に、うつ病に悩んでいる当事者や周囲の方々に向けて、メッセージをお願いします。
錦山:僕自身は、うつ病にかかったことで強迫的な考えが薄れました。過去の自分は自己責任論者だったといいますか、「遊ぶ暇があるならば仕事をする」といった考えを相手にも迫るような性格でした。ただ、うつ病になり自分はもちろん他の人のいろんな事情にも触れたことで「どうにもならないこともある」ということを知りました。そして病気になる前より、自分にも周りにも少し優しくできるようになりました。
うつ病は周囲の理解がとても大切だと思っているのですが、連載当時の反響をみても、ただでさえうつ病でつらいのに、自分の病気について家族や周囲に理解してもらうことに苦戦している人が大勢います。だから、書籍を手にとってくれた方々にとって、僕の伝えた内容が少しでも役に立てばと願います。
取材・文=青山悠