大学院を出ても職がない!? 「高学歴ワーキングプア」に解決の道はあるのか?
公開日:2020/7/6
大学院はある意味憧れの場所である。勉強は4年制の学部よりも数段も厳しいと聞くし、実際に進学した友人たちは皆優秀な人ばかりだった(筆者は文系なので、学部卒で就職する同期が多数派だった)。だが、そんな学歴エリートたちが就職でつまずくという話もまたよく聞く。特に、大学教授などを目指す研究者の道は、給与面の問題だけでなく厳しく険しいという。
なぜ、優秀な彼らが研究者の道に進もうとすると、経済的に困窮することになるのか。本書『「高学歴ワーキングプア」からの脱出』(水月昭道/光文社)を読むと、その問題の全体像がみえてくる。正規雇用の研究職ポストは非常に限られていることや、公募といってもその実採用予定者が内々に決まっていたりと、一筋縄ではいかない数々の問題があるのだ。
“採る側”の論理がモノをいう公募の裏側
教授職などのような大学教員の人事は、採る側の論理ですべてが決定する――著者は、本書の中で繰り返し、こう語る。そのため、何らかのつてや人間関係がなければ、なかなか選考を通過できないのが実情のようだ。中にはすでに採用予定者が内々で決まっているのに、公平な選考の体をとるために公募を実施するところもあるというから、外から見ればつくづく異常な世界である。
その他にも、大学内で対立関係にある教授同士の抗争に巻き込まれたり、年齢や性別のバランスが選考に影響を与えたりすることもあるそうだ。一般の就職活動でもある部分ではそうかもしれないが、“採る側”の論理がよりモノをいうのが大学という世界なのだろう。その結果として、大量の「高学歴ワーキングプア」が生まれてしまう。熱心に研究を続ける優秀な人材が、月数万円という非常勤講師の職やアルバイトをいくつも掛け持ちし、なんとか生活を維持しなくてはならなくなってしまうのだ。
「高学歴ワーキングプア」は解決できるのか?
こういった実態を知ると、「どうにか解決できないか?」と考えるのが自然だろう。だが、この問題に長年向き合ってきた著者は、残念ながら「この問題はうやむやに終わる」と予想する。主な理由を要約すると次の3つだ。
(1)すでに「高学歴ワーキングプア」の渦中にあった当事者たちは初老の域に達している
(2)一方、現在渦中にある若手研究者には情報が行き届いており、十分な覚悟をもってこの世界に入っている
(3)そもそも、本件は政治マターになりづらい
すなわち、すでに初期の「高学歴ワーキングプア」であった層は引退間近であり、またこれから参入する層は情報を十分に得ているから、これから解決していこうという動きが起こりにくいのだ。それに加え、権力から距離を置きたがる大学人の性質から、政治的な問題になりにくいという構造もあるという。
「高学歴ワーキングプア」の問題は、根本的な解決をすることがむずかしい。とはいえ、未来ある若者に情報が行き届き、ある程度覚悟をもって研究者の道を選ぶようになったこと自体はいいことだろう。本書には、散々その闇を見てきたと語る著者自身の観点による処世術についても十二分に語られている。外からはなかなか知ることのできない、研究者たちの世界。本書を開き、その実情を覗いてみては。
文=中川凌(@ryo_nakagawa_7)