本当に空き巣なの!? 知らない女性が勝手に家に出入りしてるなんて…/子育てとばして介護かよ③
更新日:2020/7/13
30代で出産する人生設計だったのに、気づけば40代に突入…いろいろ決断すべきタイミングで、なんと義両親の認知症が立て続けに発覚!
仕事の締切は待ったなし、夫の言動にもやきもきする――そんな現実に直面したらどうする? 久しぶりに会った親が「老いてきたなぁ」と感じた人は必読! 『子育てとばして介護かよ』(島影真奈美:著、川:マンガ・イラスト/KADOKAWA)から“書き下ろし”を含む試し読み連載です(全9回)。
知らない女性が勝手に出入りしているの
わたしの携帯電話に義父からの着信があったのは2016年10月のことだった。夫の浮気窃盗疑惑事件から半年ぐらい経っていた。留守番電話に「警察から連絡がいくかもしれないのでよろしく」とメッセージが残されていて、あわてて折り返した。
「ああ、真奈美(まなみ)さんですか。電話ありがとう。こちらは元気にやっています。そちらはどうですか」
電話に出た義父は思いのほか、落ち着いていた。声もおだやかで機嫌もいい。
「はい。おかげさまで元気に……いや、あの、そうじゃなくて、さっき留守電聞いたんですけど、警察からの連絡というのは?」
「ああ、あれね。どうもドロボウにやられたようで、今日警察署に届けてきました」
以前、義母が「主人は警備会社が留守中に忍びこみ、お金を盗んだと疑っている」と話していたのを思い出す。その話が再燃したのだろうか。半信半疑で相づちを打つ。
「大変でしたね。おとうさん、おかあさんが無事でよかったです。……ちなみに被害に遭われたのはいつ頃ですか」
「数日前に買い物から帰ってきたら、部屋の様子がおかしくてね。すぐに110番通報したんだが、けしからんことに、警察官にやる気が見られない。真剣にとりあってくれんのですよ。仕方ないので、こちらから警察署のほうに出向きました」
現場に駆けつけた警察官には「もの忘れ」を疑われたという。さらに、警察署では家族の連絡先を書くように言われたと、義父は腹立たしそうだった。わたしもてっきり、義父母の記憶違いだろうと思って聞いていたけれど、考えてみれば空き巣被害の可能性もある。老夫婦ふたりでの戸建て暮らしは不用心にもなりやすい。
ただ、警察署に届け出たなら見回り強化など何かしら対応してもらえるかもしれないし、離れた子どもたちが騒ぎたてるよりも、かえってよかったのかも。
義父の毅き然ぜんとした話しぶりにも安心する。さすが、おとうさん! しかし、話はそこで終わらなかった。
「持っていかれた現金はおそらく出てこないでしょうな。まあ、なくなったと言っても数万円だし、通帳は再発行すればいい。ただ、知らない女性が勝手に出入りするのだけはなんとかしてくれないと困るんだが……」
「え? 勝手に出入り……ってどういうことですか」
「くわしいことはよくわからんのですよ。家内に代わるので聞いてやってください」
いや、おとうさん、ちょっと待って。もう少しくわしく教えてください。引き留める間もなく、電話の向こうで「おーい、電話だぞ。おーい、おーい」と義父が叫び始めた。そして、義母が電話口に現れた。
「あらー、わざわざお電話くださったの。ご心配かけてごめんなさいね。あの人ったら、わざわざ電話なんてしたら心配かけるだけよって止めたのに。あの子、どうしてますか? 風邪引いてないかしら」
「達也(たつや)さん(夫)は風邪ひとつ引かず、元気にやってます。それはそうと、あの……知らない人がご自宅に……と、おとうさんに伺ったんですが」
義母のテンションの高さにひるみながらも、踏み込んでみる。
「そう! そうなの。本当に厄介な思いをしているんだけど、こんなこと、どなたに相談すればいいのかわからなくて」
義母は声を潜めると「知らない女性が勝手に出入りしているの」と言い出した。義母曰いわく「空き巣騒ぎで警察を呼んだときに集まってきた野次馬のうちのひとり」なのだという。
「ものすごく迷惑じゃないですか! どんな人なんですか?」
焦ってたずねると、義母は「そうなのよ」とため息をついた。
「ちょっと小太りの女性ね。年齢はあなたと同じぐらいか、もう少し年上かしら」
「はあ」
「ご近所のみなさんが帰られたあとも、その人だけが残っていてね。なんだか気味が悪いなとは思っていたんだけど。じーっとこっちを見ていたと思ったら、開いていた窓からバッと入ってきてね、そのまま、押し入れのふすまを開けて、スルスルーッと天袋を通って、2階に上がっちゃったの」
「え?」
「びっくりしちゃうわよねえ。まさかそんなことをする人がいるなんて」
「それは驚きますね……」
何かとんでもない話を聞かされている気がした。義母は非常識な女性だと腹を立てているけれど、そういう問題ではないような……。ただ、その「何か」の正体がわからない。もっとくわしく話を聞く必要があるけど、どう聞けばいいのかわからない。気持ちばかりが焦って、ちっとも言葉が出てこない。
わたしが黙り込んだことで気まずくなったのか、義母が「もう、こんな話を聞かせちゃってごめんなさいね」と謝りはじめた。さっきまでとは打って変わって、底抜けに明るい声で「大丈夫だから、あんまり気にしないで」と続ける。
「あなたも仕事が忙しいでしょうから、そろそろ電話切りますね。あの子にもよろしく伝えてください。さようなら、お元気でね」
義母は一方的に話を切り上げ、電話を切ってしまった。
【次回に続く!】