人生初の”心療内科”。入りにくいと思っていたけど…/「薬に頼らずに、うつを治す方法」を聞いてみました③
公開日:2020/7/18
復職後再発率ゼロの心療内科の先生に、”うつ”についてのあれこれを聞いてみました。「こころの病気」や「うつ病」、「いかに、うつを治すか」などについて学びながら、回復していくプロセスをわかりやすくリアルに伝えます。
迷いながらも、意を決して心療内科のドアを開く
亀仙人と出会ってから、私はインターネットでいろいろと調べて驚きました。私の感じている不調は、メンタル不調の人たちの症状とことごとく一致するのです。
「たしかに……」。この言葉を、私は何度パソコンの前でつぶやいたことでしょう。心療内科の予約をした(正確に言えば、予約をされた)土曜日が近づくにつれ、「これは一度診てもらったほうがいいかも」という気持ちが少しずつ芽生えてきました。
亀仙人と出会った小さな駅から3駅ほど北へ進んだ大きな駅に心療内科はありました。駅のホームからエスカレーターを降りて自動改札を出ると、そこは大きな駅ビルの2階です。真正面には百貨店が口を広げて待ちかまえています。新作のファッションが展示されている華やかなウィンドウに、少し前ならなんとなく吸い込まれていたのですが、ここ最近は何の魅力も感じません。
(中央改札を出て左……)
私はこころの中でつぶやきながら、左に向かって歩きました。駅ビルの2階にあるすべての出口からは、歩道橋に直接出ることができます。いくつかある駅前ビルの中でも最も古そうなビルの4階のフロアを歩きながら、やっぱ、やめておこうかなという気持ちが頭をもたげます。クリニックの入り口に立つと、その気持ちはさらに大きくなっています。
(やっぱり、心療内科って入りにくい。それに、単なる気のせいかもしれないし……。いや、でも、たしかにどう見てもメンタル不調の症状なんだよな……。ここまで来たら、う~ん、もう行くしかないか)
「心療内科に行くと、ほとんどの人がうつ病と診断されて、薬を処方されるだけだよ」
昔、聞いた友だちの言葉がよみがえります。大嫌いな飛び込み営業と何かが重なります。ためらいながらも、私は意を決してクリニックのドアを開けました。
思ったよりも軽く開いたドアの向こうには、静かな異世界が広がっていました。入ってすぐの右側に、白い受付のカウンターがあります。女性が1人、おだやかなトーンで対応してくれました。左側には待合室が広々と広がっていて、1人用の座イスが壁を背に向かい合わせで10脚ほど並んでいます。
「このイスおっしゃれ~」
私の口から思わず小さな声がこぼれます。スチールパイプを使ったデザイン性の高いイスで、座ってみると座り心地は満点です。
女性シンガーの歌うジャズがスピーカーから静かに流れています。その音を邪魔するわけでもなく、時折、患者を診察室へと促す静かな声が響きます。おそらく亀仙人の声です。無言で腰かけている人が1人ずつ診察室へと消えていきます。
しばらくして私の名前が呼ばれました。私は、静かに診察室の扉を開きました。
「よく来てくれたね」
友だちのように笑顔で挨拶する亀仙人に、私は少々緊張しながら答えます。
「せ、先日は、あっ、ありがとうございました」
はじめて入る診察室はかなりの広さです。奥にオシャレな大きなデスクがあって、亀仙人がこちらを向いて座っています。
手前にはコの字型のソファー。真ん中には小さなイスを2つほど従えたガラステーブルが置かれています。テーブルの上には雑誌と新聞。文字のいっぱい書かれたホワイトボードに、ごちゃごちゃと本が詰め込まれた本棚もあります。調度品のすべてが、これぞミッドセンチュリーといったミニマルデザインで統一されていて落ち着きます。
私の思っていた心療内科の診察室は、もっと狭くて、先生とは近くで向き合って……、とにかくイメージとは大きくちがいます。
(診察室というよりは社長室? いや社長室にしてはゴチャゴチャとしすぎ。これはまるで家のリビング? 亀仙人の部屋に遊びに来たみたいだ)
キョロキョロあたりを見回す私に、亀仙人は言います。
「普通の診察室は思いっきり対面式だからね。それだと威圧感あるでしょ」
「たしかに……」
「うちは、できるだけリラックスして話せるように、威圧感を取り除いて、照明やルームアロマにも気を配ってるんだ」
「へぇ~……、それにしてもゴチャゴチャしすぎてません?」
(思わず、つい本音が)
「でもね、これだと話しながらあっちこっちに視線をやれるでしょ?」
たしかに、こんなふうにいろいろと物があれば視線をそっちにやりながら、気楽にやりすごすことができそうです。
「どこに座ればいいんでしょうか?」
「好きなところに座ってくれていいから」
なんとなく、私は左側のコの字形ソファーに腰を下ろしました。
「一番居心地がよさそうなところに座ってもらわないとね。だって、初診は長めに話を聞くことになるからね」
「長め?」
「そう、軽く2、3時間はかけて、いろいろ話を聞かせてもらうことになるから」
「2、3時間!」
思わず甲高い声が出てしまいました。
(2、3時間も! そんな診察聞いたことがありません)