「うつ病」は便利な病名!? 10年間薬を飲み続けていた患者が、実は…/「薬に頼らずに、うつを治す方法」を聞いてみました⑦
公開日:2020/7/22
復職後再発率ゼロの心療内科の先生に、”うつ”についてのあれこれを聞いてみました。「こころの病気」や「うつ病」、「いかに、うつを治すか」などについて学びながら、回復していくプロセスをわかりやすくリアルに伝えます。
「ひなたちゃん、そもそも自分でうつ病かもとクリニックを訪れて、その通りに診断されて、うつ病ってなんですか? なんて聞く人っていると思う?」
「……いないでしょうね」
「さっきホワイトボードに書いた6種類の中で、うつ病以外の病名を告げると、説明して納得してもらうだけでどれくらいかかるだろうか」
「たしかに、30分でも難しいかもしれないですね……」
「それに長い間、うつ病は抗うつ薬と安静が基本と言われてきたから、処方と安静の指示だけしていれば、ほとんどの患者さんは納得してくれるからね」
「たしかに、『うつ』とするだけで時間短縮と収益アップにつながりますね」
「そうだよ。そもそも、うつ病って、突然落とし穴に落ちるようなもので、原因がはっきりわからないことも多いんだ」
「そうなんですか?」
「だから逆に言えば、原因がはっきりわかる場合は、うつ病でないことも多い」
「私の場合、原因は、仕事のストレスみたいなものですよね」
「でも、うつ病ではなくても、抑うつ状態を訴えるという理由だけでうつ病にされてしまう。これが心療内科の現状だよ」
そう言ってから、亀仙人は湯のみ茶碗のお茶をグイッと飲み干しました。そして、実際に亀仙人のクリニックを訪れた、ある患者さんの例を話してくれました。
【Aさんの場合】
クリニックを訪れた50代女性、Aさんのお話です。
Aさんは、某大手メーカーにて技術関係の仕事をしていました。40代で心療内科を受診。そして〝軽いうつ病〞と診断され、薬を飲み続ける日々がはじまります。
亀仙人に言わせると、「軽いうつ病ってなんだ? 軽いインフルエンザとかあるのか? インフルエンザはインフルエンザ、うつ病はうつ病なんだよ」ということになって、心療内科批判がはじまるのですが、それはさておいて、Aさんはそうして10年近くその心療内科に通い続けるのですが、まったく改善の兆しが見られません。
そんなとき、今の心療内科に通い続けていてはよくならず、非常に危険だと判断した会社の常勤の産業医に紹介され、亀仙人のクリニックを訪れました。
「どんな診断を下すにせよ、本人からの聞き取りや問診だけではなく、家族、職場の人も加えた3方向から聞き取りをする必要がある」と亀仙人は言います。
その言葉通り、本人とご主人はもちろん、仕事関係の数人にもお願いして、かなりの量の問診票を事前に書いてもらいました。そして本人からは、毎日の起床・就寝時刻はもちろん、いつ何をどれだけ食べたか、水分摂取量やスマホやパソコンの使用時間、排便・排尿にいたるまで、初診までの2週間の活動内容すべてを記録した生活記録表も提出してもらったそうです。
そのうえで迎えた初診の日、13時24分〜17時まで約3時間半にわたって、ご主人同席のもと、Aさんは亀仙人と話をしました。幼児期から学童期の発達の様子や、両親や家族のプロフィール、住んでいた場所、通っていた学校、転居歴や転職歴にその理由、それに日々の感情の変化や出来事を何気ない会話の中から聞き取っていきます。精神疾患には遺伝性のものもあるそうです。だからとくに両親や家族の受診歴は重要な手がかりになるのに、それすら尋ねないクリニックが多いと亀仙人は憤ります。
その結果、わかりにくかったのですが、Aさんには「軽躁状態」があることが判明しました。いつもよりよくしゃべったり、少々眠らなくても平気で、休日出勤したり、資格のために予備校に通ったり……と、気分のよい時期があるのです。そんなときは、自分が冴えている、正しいと感じて、活動的になり、じっとしていられないようでした。
それにご主人の話から、ちょっとしたことでイライラして怒りっぽくなってしまうときがあることも判明しました。それらのことから、亀仙人はAさんを、うつ病ではなく「双極Ⅱ型障害」と診断しました。「双極Ⅱ型障害」は、躁状態の山が低いために気づかれず、うつ病とよく間違われる病気です。
10年間飲み続けた抗うつ薬をやめることは大変でしたが、亀仙人のクリニックで薬に頼らないリワークプログラムを続けることで、Aさんは見事に復職を果たしました。
Aさんの実話を聞いて、私は腕組みをしてう~んとうなってしまいました。
そんな私を眺めながら、亀仙人は言いました。
「薬に頼らないリワークプログラムが、うちのクリニックの治療法なんだ」
たしかに10年間苦しんでいた人を、このクリニックでは薬に頼らずに救ったわけです。感嘆の声しか出てきません。
「すごっ!」
「ひなたちゃんにはそのプログラムを体感してもらうことになるからね」
喜んでいいのかリアクションに困っている私に、亀仙人は続けます。
「ここで問題です」
「またクイズですか?」
「うちのクリニックには、ささやかな自慢がひとつあるんだけど、それは何でしょう?」
「ささやかなことなんてわかりませんよ……」
亀仙人はニッと白い歯を見せて、満面の笑顔で言いました。
「じつは、製薬メーカーの営業が……」
「はぁ」
「1人も来ないクリニックなんだ。ワッハッハ」
(そりゃ、薬に頼らないんですもんね)
「ワッハッハ」
(笑って言うことでもないと思いますけど……)
「ワッハッハ」
ただこのときの私は、製薬会社の営業が1人も来ないということがどれだけすごいことか、本当の意味でわかってはいませんでした。