スティーヴン・キング絶賛! 世界で350万部売れたエボラを描いたノンフィクション、緊急文庫化!

文芸・カルチャー

公開日:2020/7/15

『ホット・ゾーン エボラ・ウイルス制圧に命を懸けた人々』(リチャード・プレストン:著、高見浩:翻訳/早川書房)

 2020年6月1日、世界保健機関(WHO)はコンゴ北西部の街ムバンダカでエボラ出血熱が流行していると宣言した。コンゴ東部でも2018年8月からエボラ出血熱が流行し、6月25日に終息が宣言されたものの2200人以上の死者を出した。

 このニュースを聞いたとき、「まだ新型コロナウイルスのパンデミックがおさまっていないのに」と正直思ってしまった。遠い国で流行したエボラ出血熱は過去のもので、未だに事態が落ち着いていないとは知らなかった。

 自分の無知が恥ずかしくなると共に、もっとエボラ出血熱について知りたくなった。新型コロナと共に生きなければならない時代になるかもしれない。そんなときに、エボラ出血熱について学ぶことは大きな意義があるはずだ。自分自身が無知だと恐れることしかできない。でも、少しでも「知」を得られれば……。そう思い手に取ったのが『ホット・ゾーン エボラ・ウイルス制圧に命を懸けた人々』 (リチャード・プレストン:著、高見浩:翻訳/早川書房)だった。

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 まず、本書の解説を担当した神戸大学教授の岩田健太郎さんは、ホット・ゾーンについてこう述べる。

“危険なウイルスなどの病原体がいて、最大級の防護措置が必要となるエリア”

 本書は1980年、ケニアに住むフランス人シャルル・モネが病に冒されるくだりから始まる。めまい、脱力感、やがては感覚がなくなるモネ。病院の待合室で最終段階に達した彼を、軍のバイオハザード専門家たちはこう形容する。

“崩壊し、大出血した”

 何がモネを殺したのか。知る者はその時点ではいなかった。モネを診察した医師が感染し、やがてそれがフィロウイルス科のマールブルグ・ウイルスであったことが判明する。エボラもまた、このフィロウイルス科のウイルスの一つであった。

 時は過ぎ1989年。なんとアフリカから遠く離れたアメリカの霊長類検疫所がホット・ゾーンになる。きっかけは、フィリピンからやってきたサル100匹のうち29匹が死ぬという異変が起こったことだ。

 やがて、アメリカ本土にモネが犠牲となったマールブルグ・ウイルスより恐ろしいエボラ出血熱が舞い降りたことを人々は知る。本書にはエボラ・ザイール、エボラ・スーダンという二つのエボラが登場する(現在は5種発見されている)。中でもエボラ・ザイールの当時の致死率は90%だった。

 愛する家族を持つ専門家たちは、命をかけ危機に立ち向かう。

 現在、医療は発展した。しかしエボラはなくなったわけではない。現在流行中のコロナウイルスは、エボラより致死率は低いとはいえ、世界は今後もコロナと共存しなければならないかもしれない。

 専門家ではない私たちの多くが、勇気をもってパンデミックを食い止めることは難しい。だが、個人でもできることはあるのではないだろうか。たとえば、不安な気持ちを煽るような記事を見たら、情報源を確かめ、フェイクニュースかどうか判断する。経済が打撃を受けないように、毎日働きながら何ができるのか考える。

 私たちは無力ではない。本書を閉じた後、新型コロナに対する不安が自分の中で薄らいだのを感じた。

文=若林理央