読書をしても感想文が上手くならない原因を発見!? 自分なりの意見を考えるトレーニング法

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公開日:2020/7/19

『マンガでわかる! 自分の頭で考えるための思考実験』(北村良子/河出書房新社)

 SNSで、「読書感想文なんか書かせるから、子供が読書嫌いになる」という趣旨の投稿を見かけた。確かSF作家の星新一も同様のことを云っていたはずで、思ったことを自由に書いて良いと指示される割には、感じたとおりに書くと評価されず、私の場合は教師の喜びそうな内容にしたらコンクールに選抜されることとなった。なにか納得がいかない…そんなモヤモヤした想い出が、『マンガでわかる! 自分の頭で考えるための思考実験』(北村良子/河出書房新社)を読んだ際に、急に頭の中で弾けた気がした。

 本書は、古代ギリシャの「アキレスと亀」や、サンデル教授の講義で扱われた「トロッコ問題」などの“思考実験”を漫画で説明したうえで、主人公の青年を講師が解決に導く過程において、AIロボットと対話するという形を取ることにより、考えることの愉しさを教えてくれる。思考実験とは、文字通り頭の中でだけ考えるため、特別な道具などを必要としない。しかし、ニュートンやガリレオといった偉人たちも、思考実験から実際の実験へと着手して、様々な発見をしたそうだ。

「思い込みを外す」…アキレスと亀のトリック

 このお話を私が初めて知ったのは、小学4年生の頃に読んだ四次元や宇宙人といった子供向けの不思議なことを集めた本だったと記憶している。足の速いアキレスと足の遅い亀が競走するとして、ハンデをつけるために亀を先に走らせると、アキレスが亀のいた位置に辿り着いた時には、亀は少し前に行っていて、その位置にアキレスが追いついても、やはり亀は少し先に進んでいるから、永遠に「アキレスは亀に勝てない」というもの。

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 本書では、パラパラ漫画のどこかに「新たな1ページを挿入する」のと同様と解説しており、「時間をねじ曲げている」ことに気がつくかどうかが、謎を解く鍵となる。恥ずかしながら私としては、約30年ぶりに謎が解けて嬉しい。

「イメージする」…色々なトロッコ問題

 有名なトロッコ問題のスタンダードは、二股に分かれている線路の先の片側に工事夫が一人いて、もう一方には複数の工事夫がおり、複数の工事夫のほうへトロッコが向かっている時に、線路を切り替えるポイントにいる自分はどうするかというもの。この問題には別のバージョンも考案されており、一本の線路の上に架かる橋の上に自分がいるとして、複数の工事夫めがけて暴走するトロッコに気づいた自分が、大きな物を落とせば止められると考えた際に、同じ橋を歩く大柄な男を突き落とすかどうか。

 興味深いのは、先の話で犠牲の少ない一人のほうにポイントを切り替えると答えた人も、この話では犠牲が少ないはずの一人の男を突き落とすことを選ぶ人は少なかったそうだ。本書には、さらに三つ目のバージョンも提示されているので、自分ならどうするかを考えてみると、自分が何を規範にして生きているかが分かるかもしれない。

「共通点を探す」…テセウスの船はどっち?

 トロッコ問題は死を連想させるため、心理的にシンドイという人もいるだろう。また、そもそも何かを「選ぶ」ということが、人間にとっては「疲れる」とも本書は指摘している。そこでもっと気楽に考えられそうな、漫画のドラマ化でも話題になったこの問題を考えてみよう。テセウスという名前の英雄が乗っていた木造の船を、後世に語り継ぐべく保存することに決めた人々は、朽ちた木材を新しい木材に取り換えながらテセウスの船の雄姿を保ち続けた。やがて全ての木材が新しい物となったが、修理職人が、人々が取り除いた木材を組み立て直して、もう一艘の船を作り上げた。果たして、どちらが「本物の」テセウスの船と云えるのか。

 歴史学者なら古い木材で再建した船のほうを調べたいと思うかもしれないし、画家ならば見映えのする新しい船を選ぶかもしれないが、古びた船のほうに魅力を感じるとも考えられる。読者諸兄姉は、どう判断するのかコメント欄でお教え願いたい。

「区分して考える」…知っているとは何か?

 本書のオリジナルと思われる思考実験では、ある若者が「北海道が独立して北海国になる」というニュースを知り人々に熱弁した場合、「この若者は頭がおかしい」と思うかもしれないが、その若者が「フェイクニュースというものを知らなかった」とすれば、あくまで「ニュースで知った」ということになる。では、「知っている」とはどういうことか。

 たとえば私がSNSで「○○さんに教えてもらった」という人に、相手のことを詳しく尋ねたら、「ブログで読んだ」とか「掲示板に書いてあった」と返されて、呆然としたことがある。「知っている」の意味合いが人によって違うように、「教わった」の捉え方も伝え方も異なるのかもしれない。美術や音楽なども読書感想文と似たようなもので、やらされるだけやらされて技術を教えてもらえないから、上達しないまま修了してしまった。

 そう、読書感想文にモヤモヤしていたのは、考える技術を教えてもらえなかったからなのだ。「真実はいつも一つ!」などと思考停止してしまわないように、本書から学んで気をつけたい。

文=清水銀嶺