『俺妹』の人気ヒロイン・あやせがついに報われる……! 大人気ライトノベルシリーズの最新巻は「if」の世界!!

文芸・カルチャー

更新日:2020/7/21

俺の妹がこんなに可愛いわけがない
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(14) あやせif 下』(伏見つかさ(著),かんざきひろ(イラスト)/KADOKAWA)

 2008年に刊行が始まったライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(以下『俺妹』)は多くの読者の心を魅了し、アニメ化やコミカライズ、さらにはゲームにもなった、2010年頃の代表的な人気作といえるだろう。小説自体は2013年に最終第12巻が出版され、惜しまれつつ完結を迎えた。だが、作品には多くのヒロインが登場し、本編のエンディングに納得できない層も少なからず存在したのである。そして今、まさにそういった人々を救済するかのような「最新巻」が登場。それが『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(14) あやせif 下』(伏見つかさ(著),かんざきひろ(イラスト)/KADOKAWA)なのである。

 一応、『俺妹』を知らない人のためにあらましを説明しておこう。主人公・高坂京介には桐乃という容姿端麗で学業優秀、スポーツ万能に加え雑誌の読者モデルも務めるという「完璧な」妹がいた。しかし兄妹仲は険悪で、長いこと互いを無視しあう間柄だったのだが、ある日を境に状況が一変する。実は桐乃には「エロゲー(18禁のアダルトゲーム)」を愛するという禁断の趣味があり、それを京介は偶然知ってしまったのだ。そのときから桐乃は兄に「人生相談」を持ちかけるようになり、京介は妹の望みを叶えるために奮闘することになるのだった──。

 つまり『俺妹』とは、京介が桐乃の「人生相談」に振り回されながら、妹との関係を深めていく物語なのである。無論、その過程でさまざまなヒロインが登場し、京介と「友達以上」の関係を育んでいくのだが、いずれも魅力的な女子たちであり、それぞれに多くのファンが存在したのだ。しかし本編のエンディングに至るまでに、数多のヒロインが涙に暮れる結果となった。この『あやせif』のヒロイン・新垣あやせも、そのうちのひとりである。

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 新垣あやせは、桐乃の親友でありモデル仲間。黒髪ロングの美少女で、京介的には好みのタイプド真ん中であった。しかし一見、礼儀正しく人当たりの良いあやせだが、実はとても思い込みが激しく、かつて流行った言葉を借りれば「ヤンデレ」なのである。そしてオタクを毛嫌いしており、桐乃の趣味を知ったあやせは彼女と仲違いをしてしまう。そんなふたりを救うため、あえて京介は自ら嫌われ役を演じて桐乃たちを仲直りさせるが、当然あやせからは嫌われてしまう──というのが京介とあやせの関係である。

 本編ではこの後あやせと京介の関係は改善され、仲が悪そうに見えて実は良好な間柄へと進展するが、先述の通り最終的にはあやせの想いは届かずに終わる。しかしこの『あやせif』では、報われなかったあやせの想いが成就するのだ。この作品は上下巻に分かれていて、上巻ではあやせが京介に対する誤解を解き、彼へ告白するまでの過程が描かれている。

 下巻では恋人同士となった京介とあやせの、仲睦まじくもあり、恐ろしくもある日常がコミカルに展開。まあ、あやせはヤンデレなので、対応を一歩誤れば即死の未来しかないのだから、仕方ないのデス。しかしそんなふたりにも、問題はあった。それはこの交際、桐乃には内緒ということ。あやせは、桐乃の京介に対する秘められた想いをおよそ理解しており、桐乃こそがこの恋にとって最大の障害であることを感じていたのだ。ゆえに桐乃には、然るべきときに自ら打ち明けようとしていたのだが、桐乃とあやせ共通の友人である来栖加奈子によってその計画は破綻。交際は桐乃の知るところとなり、あやせと京介にとって最大の試練が訪れることに──。

 実は本作は、かつて発売された『俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル』というゲームのシナリオがベースになっている。しかしゲームのエンディングのひとつであることと、シリーズとして正式な通巻であることは、その重みがまるで違う。これは紛れもなく『俺妹』の正統な作品なのである。そしてさらに、今後も『黒猫if』『加奈子if』というヒロインたちの物語が刊行予定だ。ここまで来れば、『麻奈実if』や『沙織if』まで期待してしまうのは当然のこと。我々の『俺妹』は、まだまだ終わらないのだ!

文=木谷誠