「~べき」という思い込みを捨てよう。無理を重ねて自分を追い込んでいませんか/コロナうつはぷかぷか思考でゆるゆる鎮める⑤

暮らし

公開日:2020/8/5

新型コロナウイルスへの不安から、心身に不調をきたす「コロナうつ」が急増。つらいと感じたら一度立ち止まり、ぷかぷかと浮いたような気分でのんびりしてみては? 精神科医が教える心を鎮める思考方法をご紹介します。

コロナうつはぷかぷか思考でゆるゆる鎮める
『コロナうつはぷかぷか思考でゆるゆる鎮める – みんな不安。でも、それでいい –』(藤野智哉/ワニブックス)

暗闇に一歩踏み出す勇気を持つ

 私の人生は、私が選んできたという実感があります。誰かに影響を受けたとしても、最終的に自分が選択して今があります。人生の責任を取るのは自分しかいません。

 心臓に持病を抱えていたのも大きかったと思います。私は医師になり、人を救う道を選びました。

 人間として不完全な私がこれまで生きてこられたのは、きっと親や師と呼べる人が私を導いてくれたことも大きかったのでしょう。そのことにとても感謝しています。

 人生はなるようにしかなりません。なりたい自分も、なりたくない自分も、あなたがいま進んでいる方向の先にあるとは限りません。

 だけど、毎日を楽しく過ごしていればその先に幸せな未来が待っていると私は思っています。そう考えなければやっていけません。

 心の中で描く未来が明るければ、人は生きていけます。ひまわりが太陽を向くように、人は自然と暖かく明るい方へ足が向かうからです。

 でも、どっちに進んで良いかわからないとしたら困ってしまいますよね。人生にはそんな暗闇の時期が誰にでもあります。

暗闇から一歩踏み出す勇気

 人間は真っ暗な部屋に放り込まれたらパニックになるでしょう。前後左右わからない漆黒の空間はあなたに恐怖を与えます。小さく縮こまりしゃがみ込んだまま動けなくなるかもしれません。

 しかし、次第に暗闇に目が慣れてくると、なんとなく見えてくるものがあるかもしれません。その頃には気持ちも落ち着いているでしょう。

 暗闇で目をこらしながら、どうしようかじっと考えたあなたは、そっと歩き出します。もう少し、その場にとどまるという選択肢もいいですね。ここがどこなのかわからないことには無闇に動き回ることはできないからです。

 同じように、人生において自分がいる場所を正確に把握している人はいません。だけど、一歩一歩そっと進むしかないわけです。

 泳ぎは得意で、プールは大好きなのに、海が苦手な人がいますよね。理由を聞くと「足がつかないから怖い」というわけです。自分の足で立っている感覚がないから恐ろしくて背筋が寒くなる。暗闇と同じ理論ですよね。

コロナうつはぷかぷか思考でゆるゆる鎮める p.146

浮かんで考える

 考えたくもないでしょうが、船が難破してあなたは太平洋のど真ん中で波間に浮かんでいると考えてください。

 浮き輪があるのでしばらく沈む心配はなさそうですが、周囲には島影も船影もありません。

 こんなときは、ただひたすら堪える時間が必要です。

 波に任せていたらどこかに陸地に到達するかもしれませんし、陸地が見えたら必死に足をかいて泳いでもいいと思います。

 ひとつだけ言えるのは、陸地も見えない海原で必死に泳ぎ続けなければいけない、という人はいないということです。

 目的地もわからないまま体力を消費したら、あっという間に息切れをしてしまいますよね。つまり、波にぷかぷかと揺られながら「どうにかなるだろう」と絶望を説き伏せることが大事なんです。

 人生という海の上で迷っているあなたも、ぷかぷかと浮かんだままぼんやりする時間が必要なんです。

 だけど、自分の人生だとすぐに答えを求めたがる。なぜなんでしょう。

 すぐに解決策や出口を求めて、「人生は常に充実しているべきだ」という思考が先に立つと、やがて息切れしてしまうのです。

へりくだらない

 あなたを苦しめているものがあるとしたら、それは「~べき」という思い込みかもしれません。

「人の役に立つべき」
「仕事はやりがいがあるべき」
「友人はたくさんいるべき」

 あなたはこれまで苦しんできたとしたら、すべてはそれらの強迫観念から来たものかもしれません。

「べき」というのは、あなたの本当にしたいこととは異なります。なぜなら、他者からの視線を意識した思考に過ぎないからです。自分が他人からどう思われるのかを気にしているんですよね。

「自分に自信を持って」というのは酷かもしれません。僕だって四六時中自信満々で生きているわけではありません。それでも、自分がどうしたいのかを見つめ直しましょう。「他人にどう思われるかではなく自分がどうしたいのか」を能動的に考えるんです。

 自信がない人はすぐにへりくだった態度をとってしまいますが、それもやめましょう。たとえば、「すみません」が口癖になっていたら要注意です。

「ごめんなさい」よりも使いやすいから頻発してしまうという人もいるでしょうが、これも相手のことを考えた発言ではなく、自分に自信がないから出てくる発言とも言えます。相手から嫌われることが怖いんですよね。

「ギリギリの到着ですみません」
「つまらないものですみません」
「私なんかですみません」

 言われた方だって良い気はしませんよね。

気持ちいいことを求めていい

 あなたが「べき」にとらわれていると、無理を重ねて自分を追い込んでしまいます。その結果、自分の心と体の悲鳴に気付けなくなります。

 ストレスから身を守る最も効果的な方法のひとつは、自分の心のハンドルを自分で握ることです。自分の意思よりも誰かの機嫌が気になったとしたら、そこで一旦ブレーキを踏んで立ち止まってもいいでしょう。

 ぷかぷかしながら、何が起きても大丈夫だと言い聞かせましょう。

 嫌なことがあったら、ハンドルをきってどこにでも行けるんだと思えばいいんです。目的地はひとつではありませんし、首都高みたいにどこかでつながっているかもしれませんよね。

 人間は皆幸せになりたいと考えています。幸せになるためには、つらい努力が必要だと考える人も多いようです。でも、私はもっと快さ、心地よさを優先していいと思っています。

 楽しいこと、気持ちいいことに罪悪感を感じる方も多いようです。「労働とはつらいもの」という思い込みは昔から強くありますよね。ユーチューバーに対する年長者の偏見は、そこに根っこがある気がします。

 それでも人生を最後まで楽しく過ごすためには、心地よさを求めることが大事なのではないでしょうか。

答えはひとつではない

 心の余裕がないときは、白か黒かという考え方をしがちです。

 それぞれ白黒の選択肢の間には、さまざまな中間の選択肢があるはずであり、グレーゾーンがあるはずなのです。

 たとえば、酒は毒であるかといえば、飲み過ぎたら死に至ることもありますが、適量ならば陽気な気分になりますし、体にもいいという意見もあります。

 酒はいいものか。悪いものか。適量だったらいいと私は思っていますが、その答えは簡単には出せないでしょう。

 さらに、死が迫っている患者さんが、酒が飲みたいと言ったとします。家族だったらひとくち飲ませてあげたいと思いますよね。

 実際に飲ませるかどうかは別にして、杓子定規にダメとは言えない気がするんです。世の中にはこんなグレーなことがあふれています。

 現代はこのようなあいまいさに耐える能力が必要とされていると思います。白か黒以外にもグレーがあるんです。

 答えがないと知ることがあなたの答えだと思うのです。

続きは本書でお楽しみください。