ひとつの会社で勤め上げる時代は終わり? 自分の「一歩」をどう踏み出すか? 守屋実さんインタビュー

ビジネス

公開日:2020/7/31

『新しい一歩を踏み出そう! 会社のプロではなく、仕事のプロになれ!』(守屋実/ダイヤモンド社)

「この本はぜひ読んだほうがいい!」と、知り合いからある本をすすめられた。新規事業立ち上げのプロで、フリーランス協会の理事も務められている守屋実さんの初となる著書『新しい一歩を踏み出そう! 会社のプロではなく、仕事のプロになれ!』(ダイヤモンド社)だ。数々の事業を連続して(2018年には4月に介護業界に特化したマッチング・プラットフォーム「ブティックス」、5月にネット印刷の「ラクスル」と2カ月連続で)上場に導き、関わってきた事業での「自分の名刺」は名刺ケース1冊分に及ぶという話に興味を抱き、取材した。
 
――「起業の心得」というメモを30年続けられているということに驚きました。本書を書くとき、メモは度々振り返られましたか?
 
 普段からしょっちゅう振り返っているので、本を書くときにわざわざ振り返ったりはしなかったです。常に辞書のように使っているので、必要なときに必要なだけ使っているという感じですね。

――日頃から読んでいて血肉になっているという感じなのですね。そういったメモの中に、「人は動いたようになる」という言葉がありました。これから本書を読む方のために、この言葉についてあらためて聞かせてください。

「新しい一歩」というのは、毎日踏み出しているような人にとっては何でもないことですけど、日々踏み出していない人からすると怖いと思うんですよね。たとえば僕は「会社を作る」ということは何遍もやっているので、何とも思わないです。日常的なことだと思っています。でも今まで会社を作ったことがない人からすると、人生の一大決心だと思うんですよね。そういった差がでるものだと思っています。
 
 最悪なのは、歩いているフリをして足踏みしている人。所詮足踏みなので、足が前に出ないはず。でも「自分は歩いてるんだ」って言うんですね。多分そういう人は、いざというときにできないと思うんです。足踏みしている人は足踏みがクセになっているから、いざというときにも足踏みしてしまう…そういうのはもったいないなと思います。

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――日頃の行動が重要だということですね。

 そうですね。大きな一歩を踏み出すのは勇気がいると思うんですけど、大きな一歩ではなく、はじめは小さく踏み出せばいいと思うんです。そしたらその内大きな一歩になると思うので。自分は一歩を踏み出したあと、二歩、三歩、そして四歩目でたまたま会社を登記しました。大きいといえば大きいけど、大きくないといえば大きくないと感じます。

――本書には、守屋さんが直感で動いてきた瞬間についても書かれています。直感というものは“磨き”がかかるものなのでしょうか。

 初めて会社を作ったのは19歳のときなので32年前です。これまで何遍も事業をやっていても結局まだどうやったらうまくいくのかはわからない。頑張って頑張って、手を尽くして尽くして尽くすと時々突破口が見出せる…というのが正直なところです。でも量を稽古したことによってひとつわかったことがあって、それが「なんとなくマズいかもしれない」という感覚です。たとえば皆で打ち合わせしているときに、たまたま聞いた発言から組織上の歪みを感じたり、売上のちょっとした減少やお客さんの離反から「もしかしたら俺たちってヤバいのかもしれない」となんとなく感じたりする…というようなことが最近少しわかるようになってきました。

――「わからないまま物事を進めていける」ということに価値があるということですよね。本書巻末の「起業の心得」メモにある、「日本の教育の最大の間違いは、答えがあると思っていることである」という記述ともつながりを感じました。

 いま我が国の課題は、僕の設定の中では2つです。人口総量が激減していることと、人口構造が激変しているということ。この2つの原因によって、世の中の新規事業も既存事業も、「これまでとは違う何か」にならなければいけないと思いますが、「どうなるか」は誰にもよくわからないと思うんです。わからないから僕たちが見つけ出したり作ったりしないといけません。
 
 でもこういうときに、1個の答えしかなくて、○か×かみたいな勉強しかしてこなかった人からすると、「よくわからないなりになんとかしなきゃいけない」というシチュエーションは苦手だと思うんです。やってきてないから。そういった意味で「新規事業ばかりやっている人間」というのは、何も見えない中に何かを見出していく作業ができるので、役に立つのではと思っています。単純な答えを求めるばかりでは世の中が進まなくなってしまったので、教育でもそういうことをある程度志向しないといけないと思います。

――本書の副題にもある通り、「会社のプロ」ではなく「仕事のプロ」になることをすすめていらっしゃいます。「仕事のプロ」の具体例として、守屋さんが自分の仕事を50=17+19+14(年齢=企業内起業数+独立起業数+週末起業数)という数式にして表現されているのは素晴らしいアイデアだなと思いました。会社に勤めていると、自分の名刺に役職・部署が書かれていますが、そうでなく自分ならではの表現になると、難しいことが多いですよね。

 ありがとうございます。職業人としての強みをどういうキャッチコピーで表すかというのは人それぞれです。数式が必ずしもいいわけではないでしょうが、少なくとも僕の場合は自分のステップをあらわすのに便利だなと思いました。