「知らなくて損した…!」思わず後悔するおもしろさ。激アツ&読めない展開にワクワクするダークファンタジー
公開日:2020/8/2
一見小柄な少女は魔獣“あかずきん”。タッグを組むは書の魔導士となった女子中学生・大麦若葉! 『赫のグリモア』(A-10/講談社)は2人が出会い、戦い、お互いにかけがえのない存在となっていく物語だ。
若葉はある日、人類史を陰から守る“書の魔導士”となる。グリモアと呼ばれる魔導書が具現化した魔獣、あかずきんと共に、殴って斬って殺し合う、ハードなバトルに身を投じることになる。
2020年6月に第4巻が発売されたところだが、正直今まで本作を知らなかったことを後悔した。激アツだし読めない展開にワクワクするし、何よりキャラクターが素晴らしいのである。この機会に、物語と同じくテンション高めで紹介させてもらいたい…!
ヒーローになりたかった少女の相棒はツンデレな最強魔獣
中学の美術部に所属し、絵を描くことが大好きな少女・若葉は、ペン画の大家だった曾祖母の遺産を相続する。その遺産とは不思議な形のペン、たくさんの絵が飾られた屋敷、そしてそこに保管されていた魔導書、あかずきんと言う少女だった。若葉は命の危険にさらされながら、あかずきんと契約し、書の魔導士となる。彼女たちはタッグを組み人類史の存続のために戦うことになった。
書の魔導士とは何か。彼らは人類の歴史を陰から守って戦ってきた存在だ。若葉の曾祖母は第二次世界大戦中にその名を馳せた大魔導士で、彼女をはじめとした魔導士たちは、未来予知機・エニグマを使い、魔獣の出現や戦争や災害を予知し、破滅の種を取り除いてきた。
魔導士の能力は描いた絵を抜き出し、現実のものにすることだ。食べ物なら味も再現でき、手や足や翼をつくれば意のままに動かすことができる。そしてもちろん強力な武器もつくりだす。その再現度が魔導士の力量なのだが、若葉は曾祖母ゆずりの才能をみせ、周囲を驚かせる。
若葉は魔導士の才能以外にも、勇気があり、機転が利き、肝も据わっている。とまどいながらも小さいころに考えていたことを思い出す。
それは「テレビアニメのヒーローのようになりたかった」こと。“嘘”でしかないのだけれど、書の魔導士となった若葉は決意する。「“嘘”を“本当”のことに変えてやる」と。とまどいながらも必死に戦い、成長していくのだ。
紀元前、最初の魔導士である“魔女”が、別の世界からやってきた魔獣たちを封じこめたものが魔導書だ。魔獣たちは本体の魔導書に契約を書き込むことでコントロールされる。そして実体化して戦う。
人間型や獣型、刀などの人工物型が存在するが、あかずきんはその中でも最強クラスの魔獣なのである。ルックスは子供のような小柄な少女、だが驚くほど強力な攻撃力と回復力を秘めている。彼女の一番の魅力はパーソナリティだ。口というか非常にガラが悪く、ときには暴走気味に、殺戮を楽しむような描写もある。だが読んでいくと彼女は基本的に人道的な正義にのっとって行動しているのがわかる。
契約者とはいえ自分を信じる若葉を、身を挺して助ける。女性や子供を傷つける相手にいきどおる。口さがなく先代の契約者(若葉の曾祖母)を罵りながら、その家族同士の話に口を出すのだ。あかずきんは契約を解除させて自由になるために、最初は若葉を騙そうとした。しかし契約し、共に戦ううちに、分かりあい、絆を深めていく。
本当のヒーローになろうとする少女と、人間以上に人間な最強の魔獣は、契約を超えた関係に。“友達”となった2人の物語が始まるのだ。
悲しみ、怒り、愛を抱えて戦う魔女たちのアツいバトル
その他にも強さと弱さを併せ持つ“いい”キャラクターたちが登場する。ここでは書の魔導士による国際警察“ゲゼルシャフト”に所属する2人をとりあげる。
竜胆雫(りんどう しずく)。彼女は幼少期に失った四肢を描き、具現化し意のままに操るハイクラスな魔導士だ。普段はクールで落ち着いているが、ある種の魔獣に対して執拗な憎悪をたぎらせており、我を失うことがある。彼女の過去はこれから描かれていくのだろう。
もうひとり、羽生乃恵瑠(はにゅう のえる)は、最新4巻でクライマックスを迎えつつある“羽生財団編”のキーパーソン。魔導士になるために努力していたものの、優秀な妹の詩枝瑠(しえる)に先をこされてくすぶっていた。そして鳴り物入りで入ってきた若葉に敵愾心を燃やす。だが強い思いで成長し、羽生家の野望を知って若葉たちと共闘することになる。嫉妬、承認欲求、愛の渇望など、人間味あふれる感情をもつ乃恵瑠には思わず共感してしまった。家族、特に反目しあっている妹との関係にも注目だ。
敵となるキャラクターたちも丁寧すぎるほど描かれているのもポイント。伏線や謎もたっぷりある。さまざまなものを抱えて戦う、少女たちの壮絶なバトルの先に待つものは、未来予知機・エニグマのみぞ知る。まだ4巻、ぜひ追いついて、このアツい作品にふれてもらいたい。
文=古林恭