杉咲花「ナイフで刺されたような衝撃」×住野よる「人としての“圧”がすごい」【対談】

小説・エッセイ

公開日:2020/8/21

杉咲花さん

 本気で世の中を良くしようと考えている、理想主義者で、痛いくらいキラキラしたヒロイン・秋好寿乃。彼女を演じた杉咲花の存在感と演技が、物語に大きな説得力を与えたと住野よるは言う。こちらも初対談!

――杉咲さんは以前から、住野さんの作品を愛読してらっしゃったそうですね。

杉咲 『君の膵臓をたべたい』を読んで感動して、住野さんの作品が新しく発売されたらチェックさせていただいていました。

advertisement

住野 プロデューサーさんから「杉咲さんにオファーを出したいと思います」と伺った時に、「読んだことあるらしいですよ」と聞いて驚きました。

杉咲 『青くて痛くて脆い』も、本屋さんで見かけて「住野さんの新作だ!」と思って、すぐ買って読ませていただいたんです。最初は楓と秋好の楽しい青春の物語として進んでいくので、私もこういう学生時代を過ごしてみたかったなぁ、と思いながら読んでいたら、まさかの展開になっていって……。ナイフでぐさっと刺されたような衝撃を味わいました。

住野 嬉しいです!

杉咲 これまでの作品とは雰囲気が違う、でもすごい作品だなって感じたんです。もしこの作品が実写化されるなら秋好を演じられたらいいな、と勝手に思っていたので、オファーをいただけた時は本当にびっくりしました。

――秋好は、世界平和の理想を抱いている女の子。大学1年の新学期が始まって早々、大人数がいる教室で講議を遮ってまで、質問という名の主張をするんですよね。

住野 「すみません、質問してもいいですか」と言って、ピシッと手を挙げるのを見た瞬間から、秋好だなって感じました。人としての「圧」がすごい。遠くから秋好を見る、楓の顔もいいですよね。「何だ、こいつ?」っていう(笑)。秋好はただ明るい子じゃなくて、やっぱりどこか狂気があるんですよね。だって、教室でちょっと目が合ったからって、食堂で当たり前のように隣に座ってくるの、やばいですもん。

杉咲 確かに(笑)。楓もびっくりしますよね。

住野 でも、「こんな子いないよ」とは思わないんですよ。杉咲さんがやってくださったおかげで、よりいっそう「いるかも」って思えるんです。

杉咲花さん
©2020映画「青くて痛くて脆い」製作委員会

――役作りで準備したことは?

杉咲 秋好の中で、夢や理想がしっかりしていることが、楓にとってまぶしく見える一つの理由になっていますよね。撮影に入る前に、秋好の夢や理想、それを妨げる戦争や貧困、暴力のことなどは、自分なりに調べたりしました。そうすることで、秋好の言ってることにより共感できるようになった感覚があるんです。

住野 秋好のことを、一人の人間として理解しようとしてくださったことが心から嬉しいです。

杉咲 現場に入ってからは、その日に撮ったシーンの台本のページに、「楓と過ごした日々の日記」みたいな感じで、思い出を書くようにしていました。なかなか実際の2人ほどの時間を過ごせないので、「楓は今日あの時こんな顔してたな」とか、その時自分がどう思ったかを書いて一日を振り返ることで、少しでも一緒に過ごした時間を濃くしたかったんです。

「気持ち悪っ」を超える「そうかもしれない」

――原作を知っていて好きだったからこそ感じるプレッシャーもあったのではないですか?

杉咲 ありました(笑)。あと、個人的に今まで何かを背負った、陰か陽かで言うと陰なイメージの役のほうが多かったんです。それに比べて秋好はすごく明るいし、ポジティブ。ここまで明るいキャラクターって、今まで演じたことがありませんでした。自分にとっての挑戦でもあったんです。

杉咲花さん
©2020映画「青くて痛くて脆い」製作委員会

――役作りで準備したことは?

住野 プロデューサーさんから「杉咲さんにお願いしたいと思っています」と言われた時、実は当時僕が見たことのある杉咲さんの姿って、『ガキ使』(『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日年越しスペシャル! 絶対に笑ってはいけないトレジャーハンター24時!』)に出演された時の映像だけだったんです。

杉咲 そうだったんですね!

住野 その直後にたまたま観たのがNHKの『LIFE!~人生に捧げるコント~』でコントをされている映像で。そうか、この人が秋好をやってくださるのか、と(笑)。

杉咲 不安になりますよね(笑)。

住野 いえいえ、そんなことはないです(笑)。その後で『湯を沸かすほどの熱い愛』などを拝見しました。今となっては、杉咲さんが演じてくださる以上の秋好ってあるのかなと思います。秋好の持っているカリスマ性が、めちゃくちゃ出ていると思うんですよ。杉咲さんの秋好は明るさや心の強さだけじゃなく、どこか弱さみたいなもの、周りが支えたくなる何かも持ち合わせている。そこは、生身の力なのかなと思うんです。

――「陰」の演技も絶妙でした。

住野 90秒バージョンの予告編、杉咲さんの「気持ち悪っ」のセリフで終わるの、めちゃくちゃいいですよね。「何が起きたの?」って、映画を観たくなります。個人的に僕が一番好きな杉咲さん演じられる秋好のセリフは、「そうかもしれない」なんですよ。「気持ち悪っ」のほうがわかりやすく鋭利なんですけど、杉咲さんの「そうかもしれない」の言い方と表情が、絶妙ですね。

杉咲 確かに難しかったです。実はあのセリフが出てくるシーン、何十回も撮影しているんです。

杉咲花さん

 

痛々しく傷ついた先に明るいものが待っている

――杉咲さんは完成した映画をご覧になって、どんな感想を持たれましたか?

杉咲 映像もそうだし音楽などの効果も加わって、自分が想像していた以上に、エンターテインメントとして楽しめる作品になっているなと感じました。ただ、楓が3年前に秋好と一緒に作った「モアイ」を壊そうとする、吉沢さんだけのシーンは撮影中あまり見ていなかったので、「楓はこんな顔をしていたのか」と。怖かったし、ショックでもありました。秋好と一緒にいた時はあんなに温かだったのに、こんな冷たい顔して、目が死んじゃって……と。

住野 ちなみに杉咲さんは楓のことをどう思いました? 大嫌いになりました?(笑)

杉咲 ぜんぜん大嫌いじゃないです(笑)。楓が秋好に対して期待をしたり、「認めてほしい」とか「自分のことを見ていてほしい」って思う感情は、人ごとではなかったです。共感まではいかなかったとしても、理解はできるなって思いましたし。もちろん、「それはダメだよ」と思うところはたくさんありましたけど、人間らしくて憎めない。特に小説だと心の中の声が書いてあるから、「こんなふうに考えて、この言葉が出たんだ」と思うと、かわいらしいなって思います。好きですよ。

住野 楓を擁護してくれる人がいて良かったです(笑)。

杉咲 痛々しくも初めて自分と向き合っていく楓の姿に、勇気をもらえるなって私は思いました。傷ついた先に、明るいものが待っている映画だと思うんです。

住野 杉咲さんが秋好で本当に良かったと思います。……って、おんなじこと言い過ぎですね、すみません。

杉咲 そんなに言われると、恥ずかしくなってきました!(笑)

取材・文=吉田大助 写真=山口宏之 
ヘアメイク:Hirotaka Iizuka(juice) スタイリング:高橋茉優 衣装協力:ドレス3万8000円(レルディ/トヨシマTEL03-4334-6765)、イヤークリップ6万2700円(オー/ハルミ ショールームTEL03-6433-5395)、バングル12万5000円(ホアキン・ベラオ/ホアキン・ベラオTEL03-6821-7772)

すぎさき・はな●1997年10月2日生まれ、東京都出身。2013年、ドラマ『夜行観覧車』で注目される。16年、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』でヒロインの妹を演じ、同年公開の映画『湯を沸かすほどの熱い愛』の演技で、第40回日本アカデミー賞・最優秀助演女優賞他を受賞。20年度後期のNHK連続テレビ小説『おちょやん』でヒロインを務める。