驚きの手法でユニクロ潜入を果たした渾身のルポが文庫化! ブラック体質は果たして本当だったのか?
更新日:2020/8/5
サイズが小さいので移動などの持ち運びにも便利で、値段も手ごろに入手できるのが文庫本の魅力。読み逃していた“人気作品”を楽しむことができる、貴重なチャンスをお見逃しなく。
《以下のレビューは単行本刊行時(2017年10月)の紹介です》
筆者の長年の不満は、27センチの足にフィットする安価なルームシューズがないことだった。しかし先日、意外にもユニクロがそれを解消してくれたのである。「ユニクロってなんだかんだ、消費者としては助かるな~」などと、その履き心地を密やかに楽しんでいたまさにその夜、本稿用の一冊が届く。ジャーナリスト横田増生氏によるユニクロ告発本の第二弾、『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋)である。
本とルームシューズを手に、はたと気づく。そう、お気に入りを手にした消費者は、ついつい忘れてしまうのだ。ユニクロが謳う「低価格+高品質」の裏には、「影」(従業員及び海外下請け工場労働者たちの過酷な労働環境)があったということを。
自ら起こした裁判で敗訴し「ブラック認定」される
人気のユニクロが「じつはブラックだった」──と、世間に知らしめたそのきっかけが横田氏による『週刊文春』での告発記事と前著『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋)だった。
ユニクロも黙ってはいない。2011年、前著の出版差し止めと2億円の損害賠償を求めて文藝春秋を提訴。しかし、司法は文藝春秋側に軍配を上げ、ユニクロは自ら起こした裁判で「ブラック認定」されて結審した(最終結審2014年12月9日付 最高裁第3小法廷 大橋正春裁判長)。
横田氏のジャーナリストとしてのゴールはしかし、単に企業にブラックの烙印を押すことでも、反省の弁を引き出すことでもない。あくまでも、労働環境の改善という結果、現実だ。それを直接取材しようと試みるも、裁判以降、ユニクロは横田氏に対して取材拒否(出入り禁止記者扱い)を続けた。
そんな横田氏が“ユニクロへの潜入取材”を決意するのは、代表柳井正氏の雑誌『プレジデント』(2015年3月2日号)での発言だったと本書で明かす。
このインタビューで柳井氏は、「ユニクロはブラックではなくホワイトに近いグレー」と批判をかわし、「悪口を言っている人」に対して「社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかぜひ体験してもらいたい」と語ったという。
「この言葉は、私への招待状なのか」(中略)つまり、私にユニクロに潜入取材をしてみろ、という柳井社長のお誘いなのだろうか、と思った。
グローバリゼーション時代のプロレタリア小説ならぬルポ
こうして始まった横田氏のユニクロ潜入取材と海外取材をまとめた本書は、グローバリゼーション時代のプロレタリア小説ならぬルポである。見えてくるのは、搾取するブルジョワジー(資本家)vs.プロレタリア(労働者)という前近代的な対立構造である。
とはいえ本書において、日本のユニクロ従業員たちが、独裁政権をしくワントップに対して、果敢にも反旗を翻すといった姿が描かれることはない。一方で、中国やカンボジアなどでは、支援する人権団体と労働者たちの連合軍が、工場運営者や発注元であるユニクロやその他のグローバルアパレル企業に対して、まさに命がけの闘いを繰り広げている様子が、著者の現地取材により明かされる。
また、ビックロ(新宿)を始めとする著者の潜入レポートでは、アルバイト業務全般についてのみならず、社長である柳井氏からの叱咤激励と指示がどうアルバイトにまで徹底通達されるかといった、ユニクロ・インサイドのリアルが描写されている。その一方で、バイト業務に慣れるうち、思わず仕事の達成感をユニクロ店頭で感じている著書の姿には、一抹の微笑ましさも感じる。
それにしても、「出入り禁止記者がよくユニクロに潜入できたな」と誰もが思うわけだが、本書で明かされるそのカラクリ(あくまでも合法手段)にも驚かされる。まさにジャーナリスト魂の真骨頂である本書。果たしてユニクロは、国内外の従業員・関連作業員に対して、ウイン×ウインとなる労働環境を与えることができたのか? その結果はぜひ、本書でご確認いただきたい。
文=町田光