コロナ禍でネガティブ気分なら「自分向けの薬」をつくろう。 誰にもいえない悩みはどう解決する?
公開日:2020/8/10
「コロナ禍で家にいて、気分がネガティブになってきた…」
「夢や目標があるのに、思うように進まない…」
「メンタルに不調を感じる、対処法がみつからない…」
そんな悩みを抱えている人々に、作家の坂口恭平さんは「自分の薬をつくろう」と提案する。その名の通りの書籍『自分の薬をつくる』(晶文社)は、もちろん化学物質などを調合して薬をつくるという“ヤバい”本ではない。
本書の中で坂口さんは、病院を開設する。病院といっても、それはワークショップである。坂口さんが医者役で、参加者が患者役となって公開診察をおこなうのだ。
“自分の意見みたいなものがなくてですね”
“いやあ、けっこう人間関係で、気まずくなっちゃったりするんですけど……”
患者役の参加者たちは、さまざまな悩みを持ち寄ってくる。そんな彼・彼女らに医者役の坂口さんはたくさんの“処方箋”を授けていくのだが、なかでも際立つ処方は「つくる」ということだ。例えば、少年時代に音楽が好きだったという人は、自分のお気に入りを集めてアルバムをつくってみる。服が好きな人は、白シャツをつくってみよう。どのような手順で、どんなことを意識して“つくる”のがそれぞれの人にとって効果的なのか、坂口さんは丁寧に伝授していく。
何を隠そう、著者の坂口恭平さん自身が、文章、絵画、音楽、建築、陶芸、はたまた野菜まで、何でも自らの力でつくってきた、いわば“つくる”ことの達人なのだ。
しかし、それは坂口さんが達人だから簡単にできるというわけではない。
コツは、“適当なアウトプット”だという。人に見せることは考えなくてよい。“適当にランダムにそれが完成形だと決めつけずに、まずは手っ取り早くやってみる”ことが重要なのだそう。例えば、死にたいと感じるほど悩んでいるときにも、ちょっとした隙間に感じるような“まだ声になっていなかった声”があると坂口さんは言う。「つくる」ということは、その声を表に出すひとつの方法なのだ。
このほかにも、日課を決めてその通りに毎日過ごしてみること、自閉すること、あるいはまずは実践せずに企画書と見積書だけを綿密につくってみることなどの「処方」を、患者役の人々にそれぞれ授けていく。
坂口さんがこの本の土台としているのは、自らの携帯電話番号を公開して相談を受けている「いのっちの電話」だ。死にたいと感じる人々からかかってくる電話を直接受け、いつでも話を聞いてきた。その集大成とも言えるのが、本書の「公開診察」なのだ。実際に深く悩んでいる人々の話を数え切れないほど聞いてきた坂口さんだからこそ、悩みに返す言葉にも説得力がある。
気分がネガティブになりがちな時期にぜひ読みたい1冊だ。本書そのものが、ある種の「薬」になるかもしれない。
文=えんどーこーた