【沖縄の貧困】「沖縄が大好きなのに、沖縄に帰りたくない」地元民がそう語るワケは?
更新日:2020/8/10
沖縄といえば、観光地の定番だ。きれいな海と、おいしいご飯。現地に住んでいる人たちの性格も穏やかだから、老後はああいうところに住んでみたい。そう思っている人も少なくないだろう。だが、「観光地」としての沖縄しか知らない私たちには、見えていない側面がある。
本書『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』(樋口耕太郎/光文社)は、外からは見えにくい沖縄の貧困と、その原因を探る本である。著者は、沖縄在住の事業家で、沖縄大学准教授も務める樋口耕太郎氏。16年間、那覇市内の某店に通い詰めた著者は、あらゆる境遇の沖縄県民と話してきた。そこで聞いた2万時間の会話に加え、学生たちのデータや、日々の生活から得た仮説をもとに、沖縄の貧困の正体を浮かび上がらせる。本書の内容を、少しだけ見てみよう。
クラクションを「鳴らせない」沖縄社会
沖縄ではクラクションを鳴らす人がほとんどいない。それを知った県外の人は「やさしい」と解釈するが、この話には別の見方がある。本書によれば、沖縄県民は、クラクションを「鳴らせない」というのだ。
もし、沖縄で毎日クラクションを鳴らせば、たちまち「怖い人」というレッテルが張られ、周りから人がいなくなる。沖縄の社会では、相手が悪い場合であっても、クラクションを鳴らすこと自体が「加害」行為。出る杭の存在は許されず、鳴らした側が非難されるのだ。こうした同調圧力は、さまざまな場面で現れる。たとえば、よく勉強する学生は、沖縄では「マーメー(真面目)」と呼ばれ、バカにされる対象だという。
定番商品ばかりが売れ、沖縄企業が儲ける構造
沖縄県民は、現状維持を是とし、変化を好まない。そんな県民性を示しているのが、沖縄での「定番商品」の圧倒的な売れ行きだ。たとえば、「まるこめ酢」という商品がある。沖縄県以外の人は、聞いたこともないだろう。だが、沖縄ではとてもよく売れている。他の国内有名ブランドは、束になってもかなわないそうだ。
この状況で儲けているのが、伝統的な「沖縄企業」たち。銀行であれば、メガバンクは琉球銀行や沖縄銀行に歯が立たない。読売や朝日といった大手新聞社は、沖縄タイムス、琉球新報の影響力にかなわない。伝統的な沖縄企業は、変化を好まない県民との相性が抜群なのだ。裏を返せば、沖縄県民は、品質で商品を選んでいないということ。こうした市場環境では、開発コストをかけて画期的な商品を作っても、昔からある定番商品に勝てない。イノベーションは生まれにくいだろう。
本書では他にも、「自尊心」の問題など、沖縄の社会に潜む貧困の原因を探っていく。読み進めていると、それらが沖縄だけの問題ではないことにも気が付くだろう。現状維持で、目立つものが嫌われる社会の閉塞感。それは、ある地域や、ある会社や、ある家――今も日本のいたるところで、数えきれないほど存在している。本書を読めば、もはやその現実から目を背けることはできない。あなたは、この「不都合な真実」を、どう受け止めますか。
文=中川凌
(@ryo_nakagawa_7)