1いいねで1日成長!? 『きみの中のぼく』は794年生きた赤ちゃんの物語
公開日:2020/8/19
各種メディアで話題となっている本がある。ツイッターで人気を博し、29万いいねを獲得したおおのたろう氏の連作ツイートに、多くの描きおろしを加えて書籍化された『きみの中のぼく』(大和書房)である。
最初は1つの投稿からはじまった「1いいねにつき1日成長する赤ちゃん」。ただ予想を遥かに超えた結果になったのだ。ツイッターをしている人なら“1いいね(1リツイート)で○○する”というチャレンジを一度は目にしたことがあるだろう。イラストレーターのおおの氏はそれにならって以下のようにつぶやいた。
1いいねにつき1日成長する赤ちゃん
365いいねごとに誕生日が来ます
1いいねにつき1日成長する赤ちゃん
365いいねごとに誕生日が来ます? pic.twitter.com/YUVeLMT9Wu— たろう(な気分)?発売中? (@OONO_TARO_B) April 11, 2020
ただここで想定外の事態に。冒頭に書いたように、獲得したのは29万いいね。ということは794歳(365いいね=1歳で換算)になってしまう計算だ。作者のおおの氏は想いを巡らせ、ほぼ毎日“1年分を1話”として物語を投稿していった。ツイートを読んでいた人たちは「えっ何歳まで成長するの…?」と思っただろう。
また、書籍化にあたり発表したエピソードに加筆と修正を行い「愛犬テンとの思い出」、“真の完結編”「あなた」など、20ページ以上の描きおろしも収録。本作を知らなかった人にも、ツイッターで楽しんできた人にもおすすめだ。
1いいねにつき1日成長! 感動と親心を生む「ぼく」の人生
描かれるのは、赤ちゃんだった「ぼく」がほぼ1ページ1歳ずつ、イラストとテキストで大人になっていくさまだ。エピソードはどれも泣けて笑えて、ほっとし、癒されるものばかりである。
“元気な赤ちゃんが生まれました”という一行からはじまる本作は、1冊で人の一生を俯瞰(ふかん)してみられる。読み終えると、感動とは別になにか不思議な親心が湧いてくるのを感じた。
「ぼく」は友達と遊び、勉強し、自分の進む道を決め、挫折し、結婚をして子供が生まれ、年老いていく。1年分がほぼ1ページなので、驚異的な速度で成長するようだが、かなり濃厚な印象である。1年ごとの行間を、いろいろ想像できる深みがあるからだ。
完結後、本作には多くの共感の声が寄せられた。
「何歳からでもチャレンジできるし、家族をもっと大切にしたい」
「自分の人生が好きだと思えるようになりました」
「大切な人に会いたくなりました」
※引用:大和書房
これらの声の意味は“794年というラスト”にたどりつけば、きっと理解できるはずだ。
たくさんの伏線とその回収、794歳まで“死なない”意味
本作はただ「ぼく」の人生が描かれているだけではない。大きな魅力は二つ。まずは読み物として楽しめる“多くの伏線”だ。
いくつか例を挙げると、たとえば「ぼく」の3歳時、イヤイヤ期の描写は後のエピソードで思わずニヤリとさせられるし、22歳時のパン屋でのアルバイトも、以後の人生に大きく影響を与える。そして音楽の道を一旦諦めて彼女と結婚。29歳時、子供のために作ったオリジナルのバースデーソングが本作の重要なポイントになる。
なお唐突に思える、不思議な姿の集団に拉致される夢や、ポストに入っていた意味不明な手紙の話などの謎も、見事に回収されるのでぜひ注目してもらいたい。
そしてもう一つの魅力が“794歳まで成長する「ぼく」”がどう描かれているか、である。おおの氏の言う通り、1いいねごとに1日成長させれば、365いいねごとに1歳ずつ年をとる。繰り返しになるが「ぼく」は29万いいねにより794歳まで成長することになるがはたして…。
この書籍版は、前述の通り「あなた」という描き下ろしを“真の完結編”として収録している。本稿のライターは、本作のタイトルにもある“成長”には、さまざまな意味があるのだと気づかされた(書籍版を最後まで読んだ人は、きっとわかってくれると思う)。
「ぼく」が794年も“死なない”ことの意味は、もしあなたがツイッターで読んでいないのであれば、ぜひこの書籍で確かめてみてほしい。
文=古林恭