角田光代を形作った350冊! 読めば本屋さんに走りたくなる、とびきりの読書案内

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/21

物語の海を泳いで
『物語の海を泳いで』(角田光代/小学館)

 読書家は、毎日、本を食べるように読んでいるような気がする。本に書かれたひとつひとつの情景が栄養になる。ときに、本に書かれたことが、身にならず、ただ、排泄されていくだけのこともある。だけれども、多くの本や、本に書かれた一節は、その人の血肉となり、その人の中に息づくのだ。

 直木賞作家・角田光代さんによる読書案内エッセイ集『物語の海を泳いで』(小学館)は、読書をするのが好きなすべての人に読んでほしい本だ。この本では、角田さんが読んだ、至福の350冊が紹介されている。角田さんは、いつでもどこでも本を読むのだという。ソファでもベッドでも風呂でもトイレでも。外に出るときも鞄に本を入れ、入れ忘れると途方に暮れるのだそうだ。そんな本とともに生活している角田さんが紹介する350冊の本は、どれも魅力的。読んだことがある本について書かれたものには、「ああ、私もそう感じた」と強く共感させられたり、「もう一回読み返してみたい」と思わされたり。さらに、読んだことがない本が紹介されていると、「私もその本を読んでみたい!」と、すぐにでも本屋さんにかけ出したくなってしまう。

 特に、私は、『長くつ下のピッピ』を読み返したくなった。角田さんも少女時代にこの本を読み、大人になった後、なんらかの仕事で必要になって読み返したという。そして、はっとしたのだそうだ。

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「幼いころ多くの本を読んだけど、私が友達に選んだのはピッピだけだったのではないかと思ったのである。この子の独自の信念、破天荒さ、独立心、独りよがり、野蛮さ、ぜんぶひっくるめて、だれよりもこの子と仲良くなりたい、この子のようになりたいと、幼き日の私は願ったのではないか」

 そして、角田さんは、私の説明できないある部分は、ピッピから学んだということに気づかされたそうだ。本好きならば、誰にだって、強く影響を受けた本があるだろう。『長くつ下のピッピ』を読み返してみたいと思うと同時に、自分が幼い頃に読んだ本を再び読んでみたくなる。そこには、年を重ねた今だから気づける発見があるに違いない。

「本のなかに書かれた言葉、そこで起きたできごと、そこで生きる人々、そこに漂う空気を五感と感情で体験すること、それが、本を読む、ということなのだ」

 絵本や児童書、小説、エッセイ、ノンフィクションに、漫画。作家も、太宰治、林芙美子、開高健、井上荒野、伊坂幸太郎、奥田英朗、桐野夏生、綿矢りさ、ジョン・アーヴィング、イーユン・リー、ミランダ・ジュライなど多種多様。この本では、本当に多彩な作品について語られていく。角田さんが読書遍歴を辿るだけで、彼女という人が見えてくる気がする。あなたも、角田さんが体験した物語の海を、この本とともに泳いでみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ