もしかして上から目線になってない? リモートワークで必要とされる「日本語」の正しい使い方
公開日:2020/8/21
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、私たちの仕事環境は大きく変わった。職場のリモートワーク化もひとつの大きな変化であり、それに伴うコミュニケーションの仕方についてもいろいろな変化が現れ始めている。
『リモートワークの日本語 最新オンライン仕事術』(石黒圭/小学館)は、言葉という視点から、今まさに直面している社会の変化への対応を促す1冊。対面での話し言葉ではなく、モニター越しの「打ち言葉」がより重要な時代における身近なやり取りの秘けつを教えてくれる。
文章にも人それぞれのキャラが反映される
ビデオ会議が日々行う業務として定着しつつあるが、リモートワークでは“文字だけのやり取り”も頻繁に行われているはずだ。本書の大きな目的は、そのような仕事環境であっても「生きたコミュニケーション」を図るところにある。
そこで問われるのが、個々人の言葉の使い方。本書の著者は、文章も人と同じで「自分自身のキャラ」が反映されると主張する。
ただ、気の利いた言い回しをするべきといった話ではない。ビジネス文書に必要なのは「TPOに合った表現方法」だ。ひとり自宅で黙々と仕事を進めていると、言葉の先に相手がいるという感覚が薄れがちだが、本来は「ビジネス文書から透けて見える人物と対話している」という意識も大切だ。顔を合わせる機会の少ない場面では、それがとりわけ重要になってくるのだ。
ともすれば上から目線に…。難しい副詞の使い方
話し言葉と書き言葉の違いを意識することも、リモートワークでは欠かせない。本書は身近な会話の実例をもとに、ちょっとした齟齬が生まれかねない場面における解決策やヒントを丁寧に伝えている。
例えば、自分が何かを頼まれている場合。次のような文面を受け取ったら、どう思うかを考えてほしい。
「主にウェブ集客のテーマに沿った記事作成をお願いいたします。」
この文章でポイントになるのは、文頭にある副詞「主に」の部分だ。送り手からすれば丁寧に伝えたつもりかもしれないが、この一言があることで「それ以外の周知的なものも含む」と誤解してしまうと、かえって混乱を生じる可能性もある。
また、副詞は使い方次第で「上から目線」がにじんでしまう場合もある。続いて紹介するのは、自分の提出物が相手から指摘されたときの事例だ。
「誤字脱字がある、日本語がおかしいなどは当然否認対象とさせていただきます。」
ここで考えるべきは、「当然」という副詞だ。なくても意味は伝わるのだがこの一言が加わるだけで、書き手が上から目線であるような印象を招きかねない。
ただ、副詞は使い方によっては相手への思いやりを丁寧に表現できる言葉でもある。最後に取り上げるのは、以下のような例文だ。
「せっかくお目にかかる機会をいただけたので、ぜひゆっくりお話がしたいです。」
この文章で使われている副詞は「せっかく」と「ぜひ」だ。相手に対する配慮がにじみ出ているように思えるが、いつでもどこでも使えるというわけではない。副詞を使うときには「どんな文脈で、どんな副詞を選んで使うか」という書き手の力量が問われるのだ。
表情や仕草が伝えられない言葉だけのやり取りでは、会話以上に細かな気配りも必要になる。本書を参考にしながら、今後も変化が加速するであろうウィズコロナの職場環境に必須のコミュニケーションスキルを身につけてほしい。
文=カネコシュウヘイ