悩んだら迷わず活用を! こころの相談ができる“窓口”があります/コロナ危機を生き抜くための心のワクチン④

暮らし

公開日:2020/8/25

家族、人間関係、経済、仕事、人生――新型コロナ禍の世界で、私たちは様々な悩みや心身の危機とどう向かいあうべきでしょうか? “絶望に陥らないための智恵”と“法律の知識”を、全盲の熱血弁護士が今、あなたに伝えます!

コロナ危機を生き抜くための心のワクチン
『コロナ危機を生き抜くための心のワクチン – 全盲弁護士の智恵と言葉 -』(大胡田誠/ワニブックス)

一度でも自殺を考えたら

 2019年の年間の自殺者数は2万169人でしたが、2020年はコロナ禍による倒産、失業の激増が予測され、自殺者数も増えるのではと懸念されています。

 僕の法律事務所の電話相談にも、コロナ禍による様々な悩みを抱えた人の相談が増えています。

 学校が休校になった児童や生徒からの相談も寄せられます。

 外出の自粛で、人と話す機会が減ることで、悩みを抱えている人々の不安もさらに高まっています。身近な人と電話で話したり、相談窓口を利用したりして、なんとかつらい状況を乗り切ってほしいと思います。

 もしあなたが深刻な悩みを抱えていたら、一人で悩みを背負わず、背負いきれなくなる前に、まず、公的な相談窓口に電話で相談しましょう。

 厚生労働省のホームページに掲載されている、自殺対策の電話相談は次の通りです。

 

●こころの健康相談統一ダイヤル(全国の公的な相談機関に接続)
0570-064-556

●よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
0120-279-338(24時間対応)

●いのちの電話(一般社団法人 日本いのちの電話連盟)
0570-783-556(午前10時から午後10時まで)
0120-783-556(毎月10日午前8時から翌日午前8時まで)
 いずれも、IP電話からは03-6634-7830(通話料有料)へ。

 

 その他、厚労省のホームページには、SNS相談やその他の窓口の情報も掲載されています。

 相談料は無料ですが、0570で始まるナビダイヤルは、別途、通話料がかかります。

 僕は国や自治体が行う自殺相談の通話料は「無料」にすべきだと思います。

 自殺の電話相談の通話料がどうして有料なのか、理解に苦しみます。通話料を気にしながらでは、落ち着いて自殺やこころの相談はできないのではないかと思います。

 

 そして今深刻なのは、国の外出自粛要請もあり、自殺を防ぐための民間の無料電話相談の何カ所かが、感染防止を理由にボランティアの相談員を減らしたり、活動を休止したり、態勢の縮小に追いやられていることです。つくづく、新型コロナウイルス禍の深刻さを感じます。警察庁『自殺統計』によると1993年以降、自殺の原因・動機は、1位が健康問題、2位が経済・生活問題となっています。

 もし、あなたが苦しさや強いだるさ、高熱などの強い症状がある場合は、新型コロナウイルスの感染を疑い、すぐに地元の保健所に設けられている「帰国者・接触者相談センター」などに相談してください。

 医療費用の心配は一切いりません。コロナ感染症の医療費の負担は保険適用となり、費用は公費負担となり、自己負担はありません。コロナ感染症で入院した場合、入院患者の医療費も公費負担です。

 

 政府は今、新型コロナウイルス感染拡大の緊急経済対策として、一律給付金10万円を国民に配布中です。住民基本台帳に記録されている全国民が対象です。

 もし今、あなたが手持ちのお金に窮しているのなら、迷わず、地元の自治体の社会福祉協議会に相談してください。

 低所得者などを対象とした制度「生活福祉資金貸付制度」がコロナ対応で拡充されました。最大20万円が無利子で借りられる「緊急小口資金」は、通帳など収入減を示す書類とともに手続きをすると、比較的迅速に個人の口座に現金が振り込まれます。返済の期限も2年に延長されました。

 同じ制度で「総合支援資金」という枠組みもあります。失業などで困窮状態が長期化した場合、毎月20万円を上限に3カ月間、最大60万円が借りられます。

 このように、合計で最大80万円までは公的な融資が無利子で受けられます。民間のカードローンなどの金利は、年15%前後とケタ違いに高いです。安易に手を出さず、まずは住んでいる市区町村の社会福祉協議会に問い合わせてみましょう。

 負担の重い税金や社会保険料の支払いについては、申告すれば支払いの猶予を受けられる制度もあります。

 なお、経済的に困窮する国民に対して、国や自治体が、健康で文化的な最低限度の生活を保障する公的扶助制度である「生活保護」の受給も検討されてみてはいかがでしょう。

 日本国憲法第25条の理念に基く生活保護法第1条にあるように、国が生活に困窮するすべての国民に対して、その困窮の程度によっては必要な生活費を給付し、最低限度の生活(ナショナル・ミニマム)を保障するとともに自立を促すことを目的とするものです。

 

 僕自身もこれまで幾度か、精神的に「自殺直前」まで追いつめられたことがあります。難関といわれる司法試験ですが、挑んでも、挑んでも不合格になるという現実に押しつぶされそうになったからです。挫折と敗北感と無力感に苛まれ、そんな自分に絶望しかけたのでした。

 最初に司法試験を受けたのは大学4年の時で、結果は惨憺たるありさまでした。試験会場からの帰り道、しょぼしょぼと雨が降っていて、「今の自分のようだな」と情けない思いをしたのを覚えています。その時、自分に言い聞かせました。

「超難関といわれる司法試験だ、簡単には合格させてはくれないだろう。ならば、30歳までには絶対に受かってやる」

 大学を卒業後、僕は沼津の実家に帰り、そこで山ごもりのような生活をして、司法試験の受験勉強をしました。毎日、頭の中にあるのは、年に一度の司法試験に合格することだけ。「弁護士になる以外に道はない」と自分に言い聞かせました。

「今年こそは、何が何でも合格するぞ」

 そんな思いで受験した4度目の試験でしたが、合格しませんでした。

 その時ばかりは、精神が萎え、「もう、だめだ」と思いました。

 その夜、両親の前に正座をして初めて心の内を打ち明けました。

「お父さん、お母さん、これまで受験勉強をがんばってきたけれど、今年も合格できなかった。来年も、次も、次も、無理かもしれない。もう、これから先どうしたらいいかわからなくなりました……」

 その時、母が僕にこんなことを言ったのです。

「精神的に追いつめられたときは、自分の心が温かいと感じるほうを選びなさい」

「もっとがんばれ」と言うのでも、「あきらめろ」と言うのでもない。「何かに迷ったときには、損か得かとか、人からどう思われるかとか、そんなことで判断せずに、自分の心が本当に何を求めているのか、何を欲しているのか、自分の心の声に真摯に耳を傾けて、自分が行く道を選びなさい。前に進みなさい。生きていきなさい」と……。

「山に行こうか」

 翌朝、父が僕を伊豆半島の天城山への山登りに誘いました。これまでも何度か父と登ったことがある山です。

 父は若い頃、デンマークで運動療法を学び、当時は病院のリハビリセンターで運動療法士をしていました。そこで、脳血管障害や小児麻痺等で半身不随になった患者さんを数多く治療した経験があり、息子が全盲であることを自然と受け入れることができたのだと思います。

 母もまた、助産師として、様々な障害を持って産まれてきた新生児を何人も取り上げた経験がありました。

 天城山に登りながら父は、僕に言いました。

「山は、登り始めの頃は山頂の景色がはっきり見える。だから、そこをめざして登っていけばいい。しかし、山頂の手前あたりに来ると、山頂が消えて見えなくなる。見えなくなると、人間は不安にかられる。このまま、この道を登って行っていいのだろうかと……。山頂が見えないのは、今いる場所が山頂に近すぎて見えないだけ。そこはもう、山頂の一歩手前なのだ。〝もう、だめだ〞と思う瞬間が、実は山頂にいちばん近づいているんだよ

 父の言葉が、僕の背中を押してくれました。

「明日からまた、つらい受験勉強をがんばれるか」

「そこまでして、本当に弁護士になりたいのか」

 自問自答の末、僕の中に、弁護士になって誰かのために働いている姿が浮かびました。

「どんなに苦しくても、時間がかかってもいいじゃないか。あきらめちゃだめだ!」

 僕は再び、来年の司法試験をめざして勉強を始めました。

 

 それから3年後の2006年9月21日、合格発表の日。法務省の掲示板に、司法試験の合格者の受験番号が一斉に貼り出されました。

「この番号がありますか」

 目が見えないので、そばにいたガードマンの方に受験票を見せて探してもらいました。

「ありますよ、おめでとう!」

 ガードマンの方が、大きな声で叫びました。

「ありがとうございます」

 この時ばかりは、涙があふれるように湧いて出てきました。

 20代のほとんどを犠牲にして挑戦した司法試験、20代最後の歳にようやく合格することができたのです。

 

 弁護士になった私の一番の使命は、「苦しみ、死をも考えているような人を少しでも助けること」だと思っています。現代の日本では、しかるべき場所に相談することができれば、様々な解決方法があります。どうか、その苦しみを一人で抱え込まないでください。

心身の健康、経済問題など悩みを抱えていたら、一人で背負わず迷わず相談を!
精神的に追いつめられたときは、心が温かいと感じるほうを選ぶ
〝もう、だめだ〞と思う瞬間が、実は山頂に一番近づいている
あきらめちゃだめだ!

<第5回に続く>