綾瀬はるかとifの旅―― “素”がたっぷり詰まった写真に眼福! ポルトガル・リスボンの石畳を行く
公開日:2020/8/22
綾瀬はるかは「美味しそうに食べる人」だ。演出だけでは決して生み出せない、食べること=生きる喜びを、彼女は自然に発する。だから彼女は、食品や飲料メーカーのCMにひっぱりだこなのだろう。
「綾瀬はるかとごはんを食べたら、きっと楽しいだろうな」
始まりは、誰かのささいな思い。けれど、それは多くの人が共感できるものだったに違いない。だから、「女優、綾瀬はるかが、世界10都市を食べつくす」というテーマで、写真集「ハルカノイセカイ」シリーズが生まれた。
その第3弾である『ハルカノイセカイ 03』(綾瀬はるか、新津保建秀:撮影/講談社)の舞台はポルトガルの首都・リスボンだ。
リスボンは、“七つの丘の街”と呼ばれているそうだ。大西洋に流れ込むテージョ川河口にあるこの街は、丘に囲まれ、坂道だらけ。28番トラムが街を巡り、脇道の先には旧市街が広がる。日本人の口にも合うポルトガル料理、新日派の人々。1年を通して気候が穏やかなリスボンには、日本人の憧れるヨーロッパがある。
素敵な異国の街へ、旅に出よう――彼女とともに。そんな「if」の旅を、写真家・新津保建秀氏が「切り撮って」ゆく。
リスボンを歩く。街を見下ろす展望台から双眼鏡を覗き込む。赤い扉の前に座り込む。
図書館のような書店で、壁一面の本棚にかけられた梯子にのぼって、おどけた表情を見せたかと思えば、店先の果実の香りを確かめ、坂道を駆け下りてゆく。
そして、「食」の時間。カフェで食べるリスボン名物のイワシやタルトを味わい、部屋で大きなカップのアイスクリーム片手にスプーンをかじる。ただ、美味しそうで、楽しそうに。
決めない、スナップ写真のようなしぐさや表情の一枚一枚がとてもナチュラルで、「綾瀬はるか」という女性の「素」を感じさせてくれる。
そして、綾瀬さんのショットの合間に度々現れる、リスボンの風景写真。街角の景色やトラム、大西洋と海岸、缶詰や壁のアップ――綾瀬さんは写っていないが、それが逆に彼女の存在を感じさせる。
「この景色を一緒に見たよね」「こんな写真、いつ撮ったの?」
街を移ろう間に彼女が見た景色、スマホで撮ったかもしれない一枚、これが彼女のお気に入りの場所なのかな? そんなことを考えながら眺めれば、その景色の中に綾瀬さんを感じることができる。
そうして旅の中で、彼女が見せる素顔に浮かぶのは――「少女」のようなあどけなさだ。デビューから20年が過ぎ、国民的な人気女優となった「綾瀬はるか」は、間違いなく大人の女性である。にもかかわらず、大人の色香や色気のようなものを、本書からは感じないのだ。ピュアとか、透明感とか、そういう言葉とも違う。たとえるなら、やはり「少女」なのだ。「綾瀬はるか」の「素」は、きっと10代の頃から変わらずにいるのだろう。
コロナ禍の今、外国は距離以上に遠い「イセカイ」になってしまった。けれど、本書を開けば、そのイセカイへと入って行ける。そこには、とびっきり美味しい食べ物と綾瀬さんの笑顔が待っている。旅が恋しくなる写真集である。
文=水陶マコト