お城に向かうかぼちゃの馬車が、通行人を轢き殺した!? 大人のためのメルヘン・ミステリ『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』

文芸・カルチャー

更新日:2021/11/4

赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』(青柳碧人/双葉社)

 日本の昔話をミステリ仕立てに翻案し、本屋大賞10位にランクインするなどの快挙を遂げた『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(双葉社)。その著者の青柳碧人氏が、第2弾となる作品を誕生させた。『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』(双葉社)は、西洋童話の世界にわたしたちを誘う連作短編ミステリだ。

 主人公の赤ずきんは、バスケットにクッキーとワインを入れて旅をしている女の子。少しぐらい寄り道したっていいわ、という気分の彼女が出会ったのは、粗末な服は豪華なドレスに変えられるのに、なぜか靴だけは泥まみれにしてしまう残念な魔法使いだ。案の定、靴を泥だらけにされた赤ずきんが川で靴を洗っていると、洗濯をしている少女に出会う。

 シンデレラと名乗る彼女は、継母と義姉に、本名ではなく「灰」を意味する「シンデレラ」という汚い名前で呼ばれているそう。陰湿ないじめに、赤ずきんは腹を立てた。「私が文句を言ってあげる。お家へ連れて行ってよ」「行っても誰もいないわ。お母さまもお姉さまも、今日は舞踏会へ行っているんだもの」。

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 聞けば今夜は、王子が伴侶を探すための特別な舞踏会があるという。「そういうことなら、お任せなさい」。呪文を唱えた魔法使いに、赤ずきんとシンデレラは、おんぼろの服を素敵なドレスへと変えてもらい──靴だけは、別の魔女にガラスの靴へと変えてもらって──お城へと向かった。

 ところが。

 何かが割れるような音と共に、馬がいなないたのはそのときでした。
「きゃあっ!」
 かぼちゃの馬車が大きく揺れ、シンデレラが赤ずきんのほうへ飛んできました。馬車は急停車したのでした。
「た、大変です!」黒ネズミの御者の慌てた声がします。
「ど、どうしたというの?」
 二人は急いで馬車を降りました。(中略)ランタンの明かりの中で誰かが倒れています。(中略)
「まさか」
 シンデレラのつぶやきを聞きつつ、赤ずきんはその人の体を揺すぶりました。
「ねえ、あなた、起きてよ、ねえ」
 彼はすでに、息をしていませんでした。
「……死んでるわ」

 舞踏会へ行く途中で、人を轢き殺すなんて。もしもここで捕まれば、旅の目的を達成できなくなる──悲嘆にくれる赤ずきんは、一方で、拭いきれない違和感を覚えていた。何かがおかしい。赤ずきんは、その違和感を追及していくことになるのだが……。

 故郷の森で、狼に「おばあさんの口はどうしてそんなに大きいの?」と問いかけた赤ずきんは、諸国を渡り歩く中で、小道具と策略を駆使しみずからの欲望を遂げようとする人々にも、同じように問いかける──「あなたの犯罪計画は、どうしてそんなに杜撰なの?」。そして“犯人”たちの欲望は、わたしたちがニュースで見る現実の人の欲望と、変わらないように読めるのだ。童話やミステリがえぐり出すのは人間の普遍的な欲望で、だからこそ人は、それらに惹かれてやまないのだと思い知らされる。

 本書に収録されているのは、「シンデレラ」「ヘンゼルとグレーテル」「眠り姫」「マッチ売りの少女」をベースにした4つの短編。全編を貫く謎も楽しめる。童話×ミステリの組み合わせの妙で新しく見えてくる普遍の世界を、あなたも体感してほしい。

文=三田ゆき

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