『アンデッドアンラック』戸塚慶文「つらい境遇の人も、みんな肯定したいという思いで描いています」【インタビュー】
公開日:2020/9/9
出し惜しみ一切なし!スタートダッシュで読者を魅了
幼い頃から『週刊少年ジャンプ』を愛読し、高校時代から編集部に持ち込みをしていた戸塚さん。24歳にして読み切りが掲載されたものの、その後はなかなか殻を破れず悩んだことも。そんな彼が、30歳を過ぎて勝ち取った初連載が『アンデッドアンラック』だ。
「以前、人の不幸を吸い取るヒロインと彼女を守る主人公の話を考えたことがあるんです。そのボツネタを元に読み切りを描いたところ、連載につながりました。当初はアンディと風子がただワチャワチャしている話でしたが、連載にあたって設定を膨らませ、バトルも増量しました」
当初考えていたのは、謎の組織に追われるふたりの逃避行もの。だが、担当編集者からのアドバイスを受け、ストーリーが大きく変わったという。
「『逃げるだけでは受け身になる。いっそ、ふたりが組織に入っちゃえば?』と言われたんです。思ってもみなかった展開なので戸惑いましたが、ジャンプの連載はスタートダッシュが肝心。そこで、組織のキャラクターや設定を一気に加えることにしました」
長年の読者だからこそ、ジャンプにおける生存戦略が見えていた戸塚さん。ほかの作品に埋もれないよう、スピード感を高め、各話の密度を上げていったと話す。
「ジャンプはヒット作と打ち切り作品、つまり成功と失敗を同時に見られる雑誌です。打ち切られた作品を読むと『展開が遅かったのかな』など、自分なりに思うところもあって。だからこそ、自分が連載するとなったら出し惜しみはしないと決めていました。おいしい部分を早く見せないと、後悔することになりますから」
そんな戸塚さんの計算を超え、野放図に動き回るのがアンディと風子。このふたりは、どのようにして生まれたのだろうか。
「不死のキャラは、長く生きすぎて世の中に飽きている達観した人物として描かれることが多いですよね。でも、どれだけ長く生きても、世界には遊び尽くせないほどいろいろなものがあるはず。開き直って楽しく生きてるヤツでもいいんじゃないか、痛い目に遭ってもケタケタ笑っているほうが読者も楽しめるんじゃないかと思いました。一方風子は、不運を呼ぶ体質を嘆き、一度は命を絶とうとした子。だからこそ肝が据わっているし、危ない行動も取る、ちょっとタガの外れた子なんです。そもそも僕は、ただの置き物になっているヒロイン、男性が何かを成し遂げた時の報酬として存在するヒロインがあまり好きではなくて。自分の役割を全力で果たす子にしたいという思いで、彼女を描きました」
最初は自身の能力を悲観していた風子だが、アンディによってこの力が切り札になると気づいていく。彼女の成長、ふたりの関係性の変化も見逃せない。
「SNSの普及によって、いろいろなものを否定する時代から、肯定しようという流れに変わった気がするんです。風子は不運を呼ぶ体質ですが、アンディはそんな彼女の存在も受け入れ、能力の活かし方を模索します。自分の能力を認めて活かそうというのは、組織に属するほかの〝否定者〟についても同じです。つらい境遇の人も、みんな肯定したいという思いでこの作品を描いています」
世界設定が練り込まれ、いまだ明かされぬ謎も多いため、ネットには考察を楽しむファンも多い。だが、難しいことを考えず、エンターテインメントとして気楽に楽しむこともできる。
「深読みもできますが、ラブコメやバトルアクションとしてラフに楽しめるマンガです。もし機会があれば、一度軽く読んでもらえたらうれしいです」
とづか・よしふみ●2013年、「宇宙観光シーアーク」で第78回JUMPトレジャー新人漫画賞準入選。20年1月より『アンデッドアンラック』連載開始。お気に入りの“否定者”はタチアナ。Twitter公式アカウント@undeadunluck
_ofで、毎週とある秘密を公開中。
取材・文:野本由起
『アンデッドアンラック』描き下ろし出張番外編