職場での「お前そっち系か!?(笑)」の嘲笑もパワハラに。LGBTとハラスメントの新常識
公開日:2020/9/3
じゃれあっている男性社員2人を「お前ら気持ち悪いな~。“ホモ”かよ(笑)」と揶揄すること。会社の社員旅行や歓送迎会で、トランスジェンダーの存在を“笑いのネタ”にするような女装の出し物を行なうこと。彼氏や彼女がいない人を「もしかして“そっち系”?」と問い詰めること……。
これらは『LGBTとハラスメント』(神谷悠一、松岡宗嗣/集英社)で言及されたハラスメントの実例や、ハラスメントにつながる言動の実例だ。
同書で強調されているのは、こうした職場での事例が、現在は法的にもパワハラと認定され、“してはいけないこと”になりつつあるということだ。
その法律とは、2020年6月に施行された「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」。大企業と自治体を対象にパワーハラスメント防止を規定する内容の法律だ(中小企業については2022年4月1日から施行)。この法律が規定するパワハラに、「SOGIハラ(ソジハラ)」やアウティング(当事者の望まない性的指向・性自認の暴露)も含まれているのだ。
なおSOGIとは「性的指向(Sexual Orientation)」と「性自認(Gender Identity)」の頭文字からとった言葉。つまり、SOGIハラとは、
・性的指向=自分の恋愛や性愛の感情がどの性別に向くか、向かないか
・性自認=自分が自分の性別をどう認識しているか
の2つについての侮蔑的な言動、からかいを指すものだ。
こうした基礎的な知識や現状認識を踏まえると、「お前ホモかよ~」的な言動がハラスメントに該当することは理解できるだろう。女装の出し物も、それがトランスジェンダーや男性同性愛者を揶揄するもので、その宴会の場に当事者であることを隠している人がいたら……と想像すれば、大いに問題があることが理解できるはずだ。
なお同書は、職場において自身がセクシュアルマイノリティであることをカミングアウトしている当事者は非常に少ない……とも強調。そのため「うちの職場にLGBTはいない」などと勝手に決めつけず、「当事者が職場で働いていると考えられる」との認識のもとで、日々の言動を意識すべきだと呼びかけている。
「彼氏/彼女いるの?」も地雷に
『LGBTとハラスメント』では、何気ない言動が「地雷」を踏んでいる事例も紹介している。たとえば、初対面の相手に「彼氏/彼女いるの?」などと執拗に聞くこともその一例。
そう問われたとき、セクシュアルマイノリティの当事者は、「そもそも自分は同性がパートナーだし……」「変に思われないように説明するには……」と困惑してしまい、時には嘘をついて誤魔化すことにもなってしまうからだ。
そもそも関係の浅い相手に、いきなり恋愛・結婚等のプライベートな事柄を執拗に聞くことは、相手がセクシュアルマイノリティでなくとも問題がある。そうしたプライベートに過度に立ち入る行為は、先に挙げたパワハラ防止法において、パワハラの6類型の1つである「個の侵害」にも該当するものだ。
プライベートに過度に立ち入るとパワハラになるケースがある。「お前そっち系かよ~(笑)」的なからかいは、からかわれた相手がシスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が一致している人)で異性愛者だとしてもパワハラになりかねない……。
こうした例を列挙すると、「そうやって何でもかんでもハラスメントになるんじゃ、何も話せないよ!」という人もいるだろう。そんな人に対して、同書は以下のような言葉を投げかけている。
これまでは何の疑問も持たずにホモネタなどのSOGIハラで笑っていた多くの人たちの側(そば)で、傷つき、でも泣き寝入りするしかなかった人たちがたくさんいるということ、その背景や構造を本書を通じて知っていただければと思います。(『LGBTとハラスメント』より)
LGBTにまつわる炎上事例は最近多いが、差別的な言動は“ネットを燃えさせる“だけでなく、一人ひとりの当事者たちの心を傷つけてきたのだと知ること。そうした言動を自分が現にしていないか/過去にしていなかったかと、あらためて考えてみること。
性自認や性的指向の違いに関わらず、それぞれの人の「他人には侵されたくない領域」に配慮すること。その領域が個々人によって違うと意識して、一人ひとりの相手と誠実に向き合うこと……。そうした大切なことを本書は教えてくれる。
文=古澤誠一郎