「あたたたたた!!」北斗神拳で復讐を企む少年が、図らずもツボの専門家・指圧師になって人助けをしてしまう

マンガ

公開日:2020/9/4

ケンシロウによろしく
『ケンシロウによろしく』(ジャスミン・ギュ/講談社)

 憎き相手に対して、時には長年かけて準備をし、来る日に向けて実行する復讐…。いじめられっ子の少年が悪魔と契約し、超能力を使って理不尽ないじめをしてくる相手に実行する能力的復讐系(『魔太郎がくる!!』)や、決まった時間にとあるサイトに恨む相手の名前を入力すると、着物を着た少女が本人の代わりに実行してくれる間接的復讐系(『地獄少女』)などなど、過去さまざまな復讐を描いたマンガ作品がある。だがいまだかつてこんなにクセの強い、しかも“変な方向”へ進みながらも純粋に復讐に燃える主人公がいただろうか? その復讐のカギとなるのは…人間のツボ! 今回は、伝説の世紀末ハードボイルドアクション漫画『北斗の拳』に描かれた“秘技”を使って、因縁の相手への復讐に挑む青年を描く、ジャスミン・ギュ先生の『ケンシロウによろしく』(講談社)のツボを突きます!

なぜ少年は『北斗の拳』の世界に邁進を? 復讐の道には…

 時は西暦19XX年、世界は核の炎に包まれた。荒野と化した地球に生き残った人類は再び暴力に支配され、弱者は虐げられるだけの過酷な運命を負わされた。そんな核戦争後の大地に、肉体に散在する経絡秘孔(ツボ)を突いて内部から相手を破壊するという、一子相伝の暗殺拳「北斗神拳」の継承者であるケンシロウが現れ、数々の敵たちとの死闘を繰り広げる…のは、伝説のマンガ作品『北斗の拳』。そのケンシロウが持つ秘儀・北斗神拳の体得を目指すひとりの少年がいた。

 彼の名は、沼倉孝一。彼は幼い頃、非常に辛い出来事に襲われた。それは、彼の母親が極道者・木村に奪われたのだ(※実際は、木村と恋に落ち息子を捨てた)。これをキッカケに、彼は木村への復讐を誓う。部屋にあった『北斗の拳』をヒントに…。沼倉はガムシャラに読み漁り、その方法を見つける。そう、秘孔(ツボ)を突くことで相手を殺すことができる「北斗神拳」だ。彼はケンシロウのような肉体づくりに専念しては『北斗の拳』を読むという鍛錬の日々を送り、いわばマンガの知識と勢いだけでケンシロウのような肉体と技術を体得した。

「完璧だ 殺せるぞ」

 絶対的な自信を持った沼倉は、早速木村との決戦へ。瞬殺されたのは、沼倉だった…。あくまでもマンガの知識、肝心のツボの場所を理解していなかったのだ。それから改めて本格的に始めるツボの猛勉強。そして体得する本物の技術、獲得した指圧師の国家資格! ん…? これは、指圧院を開業し暗殺を遂行しようと企む凄腕マッサージ師の男が、木村への復讐のツボを押すその時を待ちながら、人々をツボで救っていく物語なのだ。

 私が子どもの頃は、友だちが北斗の拳ゴッコでほかの子に向かって「あたたたたた!」と北斗神拳を撃つ光景はよく見られたものだ。でも、その北斗神拳はあくまでも遊び、「ウソっこ」なのだ(ウソっこって言葉、久々に使った)。だが、この物語の主人公・沼倉が挑むのはまぎれもなく本気だ。「確実に死へ追いやるツボがある」と信じ、今日まで本気で取り組んできたが、北斗神拳は「一子相伝(奥義をわが子の1人にだけ伝えること)」と描かれているため、実際には体得はムリ。それでも猛勉強した結果、無事に資格を取って、晴れて指圧院を開業…って、ツッコミ案件だ!

 復讐の道へと進んだつもりが思わぬ方向へ進むことになるという、トンデモ展開が繰り広げられる。その後も、彼の指圧に感動して弟子入りする人が現れたり、かなりスゴいお得意様からの難題に対応したりと、ツッコミの絶えないクセの強いシーンの連続は、どれも見ものだ。作品タイトル『ケンシロウによろしく』とあるように、主人公である沼倉は精神も肉体もケンシロウ一色に染まるのだが、オリジナルの『北斗の拳』をよく知らないという人でも、一気に雰囲気に取り込まれて楽しめる。もちろん『北斗の拳』のコアなファンを喜ばせるような演出やネタも随所に用意されている。

ケンシロウによろしく

 この1巻では早くも因縁の相手である木村との再会が実現し、ついにツボを仕掛けるチャンス――つまり“診療”が始まる。このストーリーの行方が読者にとっては衝撃のツボを突いてくるので、ぜひ刮目していただきたい。

 著者前作である、組長の命令で性転換手術を受けてアイドルになった極道者のアイカツコメディ『Back Street Girls』と同様、他にはないトンデモ展開から始まるジャスミン・ギュ先生ならではのエンタメ復讐劇と笑いの北斗神拳に、“ひでぶ”すること間違いナシだ!

文・手書きPOP=はりまりょう