永山絢斗「舞台へのチャレンジ、この法廷劇の傑作を演じ切ることで、自分のなかの意識がきっと変わる」
公開日:2020/9/11
世界中の劇作家たちにも影響を与え続けている法廷劇の金字塔『十二人の怒れる男』。9月よりBunkamuraシアターコクーンにて上演される、その緊迫の会話劇の舞台に立つ永山絢斗さんが、毎月3人の旬なゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』に登場してくれました。外出自粛期間中に訪れた本との新鮮な出会い、そして7年ぶりの出演となる舞台作についてお話を伺いました。
「上巻を手にしたあと、仕事が忙しくて少し止まっていたんですけど、外出自粛期間中に、中巻、下巻と一気に読みました。花村萬月さんの作品を読んだのは初めてだったのですが、いや、もう、ちょっとヤバかったですね」
高校生の頃、『ノルウェイの森』を読んで以来、村上春樹作品を読み続けているという永山さんに、おすすめの一冊として、この日、携えてきてくれた『ワルツ』を薦めてくれたのは、やはり同じ村上春樹好きの人だったという。
「だから間違いないなと思って、この大長編に挑みました。萬月さんの“言葉”がすごくいいんです。舞台となっている終戦直後の時代背景だったり、任侠のことだったり、匂いや湿度さえも感じられる細やかな描写にすごくそそられる。ひとつひとつのセリフや、場面にしびれる。任侠の生き方のなかには美学が感じられる」
特攻崩れの城山、美貌の残留朝鮮人・林、空襲で身寄りをなくした生娘・百合子の3人が奏でていくストーリーは映像的でもある。
「“演じたい”という憧れも抱きました。ストーリーは怒涛の展開をもって進んでいくのですが、そこにはいくつもの意味も隠れていて。“ワルツ”というタイトルにある意味がわかったときは、ぞくぞくしました。戦争ですべてを失った人々が、国家というものや、国の矛盾などに言及し、考えを巡らせていくセリフの数々も胸を衝いてきた。この作品を読み終わったあとすぐ、萬月さんの『色』という短編集もひもといていきました。薦めてもらったことで、まだ読んでいなかった作家さんとの出会いをもらい、読書の楽しみがまた広がった。本当に有難かったなと思います」
9月から出演する舞台『十二人の怒れる男』では役者としての世界も広がる。映像作品を中心に活躍する永山さんの7年ぶり、2度目の舞台作品となる。
「もともと映画が好きだということもあり、僕はカメラの前で演じることが好きなんです。これまで舞台への出演に対して積極的ではありませんでしたが、本作では、英国屈指の実力派演出家、リンゼイ・ポズナーさんが演出をされるということに惹かれ、チャレンジさせていただくことを決めました」
父親殺しの罪で裁判にかけられる少年。無作為に選ばれた12人の陪審員たちが、有罪か無罪かの重大な評決をしなければならず、有罪となれば少年は死刑となる。陪審員たちの予備投票では有罪11票、無罪1票。ただひとり無罪票を投じた陪審員8番の「もし、我々が間違えていたら……」という言葉で、陪審員室の空気は一変、男たちの討論は白熱したものになっていく――。ヘンリー・フォンダ主演の映画作品でも知られる法廷劇の傑作が、シアターコクーンで上演されるのは実に11年ぶり。陪審員12人を演じるのは、日本演劇界屈指の錚々たるメンバーだ。
「意識の仕方がまるで違ってくるんだろうなと思います。この舞台を演じることを通し、これまでとはまったく違うアプローチの仕方が見つかるかもしれないと思うと楽しみですね。陪審員8番を演じる堤真一さんをはじめ、共演者の方々はベテランの方ばかり。そこでもいろいろ盗めたらいいなと思っています」
率直で礼儀正しいが仲間意識を好む陪審員1番、騒々しく興奮しやすく、息子との関係に問題を持つ陪審員3番、自分の考えに自信が持てない陪審員5番……気質も生活環境も異なる12人の陪審員たち。永山さんは、シニカルな冗談好きで、野球の試合に間に合うことばかり考えている陪審員7番を演じる。“無関心”という部分で、おそらく観る人の気持ちに寄り添う、彼の変化をどう見せていくのか。舞台での永山さんが楽しみだ。
「観客の方に囲まれる形でつくられるセンターステージで、幕が開いてから下りるまで、出ずっぱりです。きっと観たことのないような舞台になると思います。この作品を演じることによって、もっと違う視点で自分を見て、これまで知り得なかった何かが見つかるところへと手を伸ばしていけたらいいなと感じています」
取材・文:河村道子 写真:かくたみほ
COCOON PRODUCTION2020 DISCOVER WORLD THEATRE vol.9『十二人の怒れる男』
作:レジナルド・ローズ 翻訳:徐 賀世子 演出:リンゼイ・ポズナー 美術・衣裳:ピーター・マッキントッシュ
出演:陪審員1番:ベンガル、2番:堀 文明、3番:山崎 一、4番:石丸幹二、5番:少路勇介、6番:梶原 善、7番:永山絢斗、8番:堤 真一、9番:青山達三、10番:吉見一豊、11番:三上市朗、12番:溝端淳平<陪審員番号順>、阿岐之将一(警備員) 9月11日(金)~10月4日(日)Bunkamuraシアターコクーン
●父殺しの罪で裁判にかけられ、有罪が確定すれば死刑になる少年。評決は無作為に選ばれた12人の陪審員たちの手に。激論の果てにあるものは? 法廷劇の傑作が蘇る。
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