ブラインドサッカーって知ってる? 視覚障害者が戦う、“見えない”スポーツの世界

マンガ

公開日:2020/9/10

ブクロキックス
『ブクロキックス』(松木いっか/講談社)

 スポーツにおいて“視覚”は決して欠かせないものだと僕は思っていた。目が見えなければ動くことすらままならないし、味方や敵はもちろん、標的さえも見失ってしまうからだ。きっと僕と同じように考えている人は多いだろう。しかし、『ブクロキックス』(松木いっか/講談社)を手にし読了した後、僕の中で築き上げられていた固定観念の壁は、良い意味で盛大に崩壊した。

 本書の主人公・小山田千洋は、整体師として働く生まれつき“全盲”の19歳。ある日、彼は施術を担当した韓国人女性・ジヘと出会ったことで、今まで触れることのなかった世界を知ることになる。それは「ブラインドサッカー」というスポーツの世界だ。

 ブラインドサッカーとは、アイマスクを着用し、音の出るボールを用いて行う5人制サッカーのことだ。目でボールを追えないため、どれだけ「声」と「音」に神経を研ぎ澄まし、「想像力」を膨らませられるかが勝敗のカギを握るといわれている。観る人によってはまったく新しいスポーツに見えるだろう。公式の規定では、ゴールキーパー以外は、全盲から光覚(光を感じられる)までのプレーヤーであることが必須だが、一般の大会では視覚に障がいのない晴眼プレーヤーも参加できる。そんな障がいの垣根を越えた交流があるのも、ブラインドサッカーならではの醍醐味なのだ。

advertisement

 本書でも、同僚のハルカ、ハルカの父・浩二、ゲイバーのママら晴眼者が、小山田とともにジヘの父が率いるチームに参加している。ただまったく経験のない初心者がすぐプレーできるようになるかというと、話は別だ。それほどブラインドサッカーは甘くない。まともにボールに触れるかどうかも怪しいだろう。1巻ではひょんなきっかけで、いきなり都内最強のチーム「玉帝新宿」と試合をするのだが、とうてい試合とは呼べない状態が続いてしまう。

 しかし、小山田は別格だった。彼だけは、最初からはっきり見えているかのようにボールを操るのだ。それもそのはず。小山田は全盲でありながら、晴眼者のサッカーチームに所属しプレーをしていた経験があるのだ! そのボールさばきと迫力あるプレーは、「玉帝新宿」の選手をたじろがせるほど。そしてここから、彼の取り巻く世界は大きく変わってゆくことになる。

 本書の舞台となるのは、言うまでもなくブラインドサッカーの世界だ。名前を聞いたことはあっても、実際に試合を観たことがある人は少ないかもしれない。

 本書を手にし、読んでみようと思っていただけたのなら、一度日本ブラインドサッカー協会が載せている試合動画を視ることも、強くおすすめする。ブラインドサッカーへの見方はもちろん、何かに挑戦し続ける人のかっこよさにきっと感銘するはずだから。本書は、そんなきっかけを与えてくれる作品だ。

文=トヤカン