社会現象を巻き起こした『ハッピー・マニア』に続編が!? 45歳の主人公に離婚の危機が訪れる
公開日:2020/9/13
漫画家、安野モヨコさんには数々のヒット作がある。中でも彼女の出世作となったのは、恋に生きるシゲタカヨコという20代女性を主役にした『ハッピー・マニア』(祥伝社)である。
当時漫画好きの子供だった私は、『ハッピー・マニア』を読んでこう思った。
「この漫画は、他の女性向け漫画と違う」
シゲタは今なら「ビッチ」と言われてしまうのだろうか。
彼女は気になった男と関係を持っては夢中になり失恋し、定職もない。喜んだり怒ったりと感情表現も豊かなのだが、どんな目に遭ってもシゲタに悲壮感はまったくない。きれいごとのない世界で汗をかいて駆けずり回るシゲタの姿は、女性向け漫画の王道ヒロインとは異なりすぎていて衝撃的だった。
また、彼女が自分のことを正当化しようとするたびに、シゲタの親友フクちゃんが厳しすぎるツッコミを入れるのも斬新だった。これまでの女性向け漫画だと、主人公の親友は無条件に主人公を応援することが多かった。だがフクちゃんはいつも手厳しく、シゲタを現実に引き戻そうとした。
『ハッピー・マニア』は1995年から2001年まで『FEEL YOUNG』(祥伝社)で連載、1998年にドラマ化もされた。シゲタはあの後どうなったのだろう? 約20年、気になり続けたファン待望の続編が去年、連載開始した。タイトルは『後ハッピーマニア』(祥伝社)である。
前作の後、物語の上でも20年近い年月が流れていた。シゲタは結婚して名字が変わり、タカハシカヨコになった。以降は本作に倣ってカヨコと呼ぶ。45歳になったカヨコは『ハッピー・マニア』でカヨコを想い続けたタカハシと平穏な結婚生活を送っていた……はずなのに、序盤からいきなりタカハシに離婚を切り出される。
“今別れるってどういうことかわかってんの?
あたしはもう45歳なんだよっ”
ここでカヨコはタカハシを殴る。文章にするとシリアスなのだが、漫画で読むとカヨコの性格が『ハッピー・マニア』とほとんど変わっていないことに気づく。
そしてカヨコの親友フクちゃんも健在だ。『ハッピー・マニア』では恋人と結婚し幸せになった……と思いきや、人生何が起こるかわからない。アラフィフになったフクちゃんは夫ヒデキと息子の間に溝ができていた。
一方、カヨコは離婚を希望するタカハシに会うのが耐えられなくなっていた。カヨコはフクちゃんの家に押しかける。「悩んだらフクちゃん」というカヨコのスタンスも20年前と一緒だし、カヨコに無表情で厳しく言い放つフクちゃんの性格も変わらない。
“まあ…家事は適当この上なく
仕事は時々するもののバイトとパートでたいして稼がず
暴力ふるう45歳の嫁じゃあね
タカハシもよく耐えてたよ…”
フクちゃんはカヨコの状況を客観的に言語化してくれる。
カヨコとフクちゃんが直面する夫婦の問題に加え、『後ハッピーマニア』では新キャラクターも登場する。タカハシやヒデキの恋した女性は、他の漫画にあるような典型的な「不倫相手」ではなかった。また、カヨコは『ハッピー・マニア』で関係を持った男と再会するが、相手は40代になっても遊び人なのにカヨコのことはセックスの対象として既に見ていない。
カヨコが男から男へ幸せを求め駆け巡っていた物語が前作だった。この続編でもカヨコはよく走るが、向かう先は前作と違うのではないだろうか。
『後ハッピーマニア』は、既に前作を超える面白さになっている。
文=若林理央