「ヨシタケシンスケさんって○ネタ好きですよね?」Twitterの“あるある選手権”で話題の坊主さんに聞いた、『あつかったらぬげばいい』と仏教の意外な共通点
更新日:2020/9/10
もとは、勤めていた坊主バーの宣伝のため、Twitterをはじめた坊主
(@bozu_108)
さん。つぶやく仏教ネタがなくなりだしたころにはじめた「あるある選手権」が話題をよび、いまやフォロワーは110万人超え。最近では、新宿御苑に虚無僧バーをオープンし、独自の活動を続ける坊主さんが、ヨシタケシンスケさんの最新絵本『あつかったら ぬげばいい』(白泉社)を読んでどんな感想を抱くのか……?
『あつかったら ぬげばいい』と仏教の意外な共通点
――『あつかったら ぬげばいい』を読んでみて、いかがでしたか?
坊主 何かに疲れて、救いを求めている人が読むと、ふっと心が救われるような絵本だなと思いました。使われている言葉は簡単で、誰にでもわかりやすく書かれているので、子どもはもちろん楽しめると思うんですけど、日々に疲れたサラリーマンの方も読んでみると、響くんじゃないでしょうか。あとは、仏教の教えに近いところがあるなと思いましたね。
――というと。
坊主 まあ、これはあくまで私個人の感想なんですけど。難しく考えすぎる必要はなく、いちばん手前に真理はある、というところとかですかね。シンプルすぎて違うと思いがちなことが、意外と最適な解決策であることが多いっていうのは、まさに「暑かったら脱げばいい」ってことだと思うんですけれど。僕は、ヨシタケさんの絵本は『つまんない つまんない』と『それしか ないわけ ないでしょう』しか読んでいませんが、『あつかったら ぬげばいい』って中でもいちばんシンプルな構成じゃないですか。
――特定の主人公がいる物語ではなくて、見開きの2枚絵で「あつかったら⇒ぬげばいい」「ひとのふこうをねがっちゃったら⇒なみうちぎわにかけばいい」など、問題と解決策が描かれているだけですからね。
坊主 その無駄を省いている感じも、ちょっと仏教的かなと。そういえば、『ものは言いよう』(※ヨシタケシンスケ読本でインタビューなどを収録)も読んだんですけど、ヨシタケさんって、いつも同じ服着ていますよね。スティーブ・ジョブズみたいだ、と編集者から指摘されていましたが、ジョブズは仏教思想に影響を受けていた人なので、ヨシタケさんも思想的に近いものをお持ちなのかもしれないな、と思いました。
――坊主さんご自身が共感したり、好きだなと思ったりしたページはありますか?
坊主 そうですね……。僕がTwitterでやってる「あるある選手権」っていう大喜利に近い部分は少しあるかな、と思いました。むかし「深そうで深くない言葉選手権」っていうのをやったとき、「ハードルは高くなるほど潜りやすい」という作品が寄せられたんですが、『あつかったら ぬげばいい』の雰囲気と似ていません?
――似てますね。ハードルだからって飛ばなくていいんだ、っていうのは、けっこうはっとさせられます。
坊主 その言葉はけっきょく「深いのではないか」という問い合わせが相次いで、審議の結果、深いということになったんですけれど。そういう、深そうで深くない、けれど一周まわってやっぱり深い、みたいなのがヨシタケさんの作品、とくに『あつかったら ぬげばいい』にはあると思います。僕自身は「ふとっちゃったら⇒なかまをみつければいい」っていうのが好きでした。「痩せなきゃ」とか「こんな自分はだめだ」とか自責に向かない考え方は素敵ですね。
――以前、インタビューで「Twitterを見ていると、寂しそうな人がいっぱいいて。どうにかして救ってあげたいなという気持ちがありました」とおっしゃっていましたが、その寂しそうな人と、ヨシタケさんの絵本が響く層は、近いのでしょうか。
坊主 どうでしょうね。実際に会ったことがあるわけじゃないのでわかりませんが、響く人はいる、と思います。僕が「あるある選手権」をやっているのは、おもしろいコメントさえすれば、まるで知らない人からも「いいね!」がもらえるからなんですよ。そうすることで、みなさん、自分を認めてもらえた、みたいな感覚を得ることができる。だからいっぱいお題を出して、いっぱい「いいね!」をもらえる、だけじゃなくて、自分も誰かに「いいね!」って言うチャンスをつくっているんです。だから、ヨシタケさんの絵本を読んで「これでいいんだ」と思うことができれば、その人の承認欲求も少し、満たされるかもしれません。
坊主さんとヨシタケシンスケさんの性格も、ちょっと似ている!?
――『ものは言いよう』をお読みになって、ヨシタケさんご自身への印象はいかがですか?
坊主 ええと……ヨシタケさんって、たぶん下ネタ好きですよね?
――え!?
坊主 一問一答コーナーのところで「くだけた女性はお好きですか?」に対して「くだけた方にくだいてもらうのが夢です」って答えるじゃないですか。「絵を描くこと以外で好きなことは何ですか?」には「こっそりいかがわしい動画を観ることです」。毎日のルーティンの一つは「ネットの閲覧履歴を消去する」。すごくよくわかるなあ、と思って親近感を抱きました。
――ヨシタケさんは、以前インタビューでいやらしいものもちゃんと書きたいとおっしゃっていて。子どもも読むから塩梅が難しいけれど、あたりまえの本能として、品よくちゃんと扱いたいと。
坊主 「絵本づくりのときに一番大事にしているのは、クレームが来ないようにするということ」って言葉もありましたよね。僕もそれはいちばん大事にしているので、よくわかるなって思いました。
――炎上させない、ということですか?
坊主 そうですね。下ネタも扱いが難しいのですが、いちばん気をつけているのは差別的な発言をしないようにすることかな……。目にした人を、絶対に傷つけないようにしたいんですよ。だから「あるある選手権」も入賞というポジティブな形で表彰する。ほめたたえる。そうすればみんな、喜んでくれるから。
――承認欲求、というお話がありましたけど、坊主さんのツイートやヨシタケさんの絵本に触れると、自分自身をどこか肯定してもらえる気持ちになるんですよね。だめな自分は急には変えられないけど、だめな部分を持ったままでも大丈夫、大丈夫、って。
坊主 そうですね。『ものは言いよう』を読んだり、絵本のイラストとかを見たりして、ヨシタケさんって意外とめんどくさがりだったり、逃げ癖がある人なんじゃないかなという気がしたんですよ。でもたぶん、逃げたくなる気持ちも知っている人だから、相手を肯定することもできるんじゃないでしょうか。
――みなさんとのツイートのやりとりを通じて、坊主さんご自身が救われている、という体感はありますか?
坊主 いや……僕はあくまでTwitterも仏教修行の一環だと思っているので、自分が救われたいとか、どうにかしようという気持ちはないですね。「あるある選手権」でフォロワーを増やし、合間に仏教用語をつぶやくことで、教えを広く伝えたり、ときどき迷子犬とか迷子猫の情報を拡散したりするのは、何かしらの形で人の役に立つことをしたいから。基盤は、僧侶としてのふるまいを貫いているつもりです。
――フォロワーにとくに響いた仏の教えってありますか? 市川海老蔵さんが、妻の麻央さんが亡くなってまもなく、子連れでディズニーランドへ行ったことが批判されていたときつぶやかれた〈残された者が笑顔でニコニコしてることが先に逝った人への最高の供養だと、高齢の住職から教わりました〉も話題になっていましたが。
坊主 〈仏教には汚い言葉を使ってはいけません、綺麗な言葉を使いましょう。という意味で「不悪口(フアック)」というのがあります。〉っていうのは、ブーメランじゃないかっていうことでけっこうウケました。
――すごく、Twitterで伝わりやすい、書き言葉ならではの表現ですね。そういう坊主さんに認められたくて、「あるある選手権」で「なにかうまいことを言いたい」と一生懸命考えたくなるのもわかります。
坊主 その考えている時間も楽しければ、救いに繋がるのかなとは思いますね。
――ちなみに、『あつかったら ぬげばいい』から発想する選手権って何かありますか?
坊主 たとえば「あつかったら⇒」はそのまま、「ぬげばいい」のところだけ白抜きにして、ここに当てはまりそうな言葉選手権、とか。あとは僕、「だいじなひとがいなくなったら」の、おじいちゃんの悲しそうな背中が好きなんですけど、この絵だけピックアップして、「このおじいちゃんには何があったのか」選手権とか。
――坊主さんだったら、何を入れますか?
坊主 そうですね。「深田えいみにフォロワー取られた…」でしょうか。
――(笑)!
坊主 自分だったらどうするだろう、を考えてもいいですし、そんなふうに言葉を変えて遊んでもいいですし、ふだん本を読まない僕でも10分くらいで読めて、なおかつ心に深く刺さる本だと思いました。ヨシタケさんご自身も込みで、とても魅力的だと思います。僕のフォロワーさんも、疲れたサラリーマンも、ぜひ手にとってみてください。
取材・文=立花もも