「男の子が好きな僕」が繊細につづる、共感度150%の愛のエッセイ
公開日:2020/9/11
「気になってた人」が「好きな人」に突然変わった瞬間、「好き」と比例する不安定な感情、「もっと触れたい」とひそかにたまる不満、恋が終わった喪失感――私たちは誰かを好きになるたび、さまざまな“むずかしい感情”に振り回される。そして不都合なことに、そのふくざつな気持ちの多くをうまく言語化することができず、モヤモヤがたまっていく一方だ。
恋に欲張りになったり、恋で落ち込んだり。そんな言葉にできないややこしい気持ちをていねいに紡いだエッセイが誕生した。今回紹介する、『別れる理由を何個集めても、たったひとつの好きに勝てない』(KADOKAWA)である。
著者のたいが氏は、SNSフォロワー累計33万人を擁する話題のジェンダーレス男子。20代ながら“言い得て妙”な恋愛観をTwitterで発信し、男女問わず共感の嵐を呼んでいる。
それでも人を愛することに真剣に向きあいたい
表題、「別れる理由を何個集めても、たったひとつの好きに勝てない」をはじめ、本書はたいが氏独自の名言が連発される。一部をいくつか紹介しよう。
「好きな人に言われる『かわいい』の一言でこの自分でよかったと思えるから好きな人の存在って偉大すぎる」
ときにはコンプレックスのせいで自分を劣等品かのように思い込んでしまうことが誰にだってあるだろう。
でも、自分が嫌いな部分を含め「かわいい、好きだ」と言ってくれる人がいるとしたら? そのコンプレックスさえも相手からしたら“好きな要素”のひとつなんだと捉えると、ふしぎと「こんな自分でもよかったのかも」と思えてくる。
「恋愛の理想は星の数ほどある。でも結局、好きになったら「その人」が理想になる」
「あ、この人のこと好きかも」と思った瞬間、今まで思い描いていたたくさんの理想が一瞬でどうでもよくなってしまった――みなさんにもそんな経験はないだろうか?
相手がどれだけクズになってもいい、落ちぶれてもいい。ただひとつ求めるのは、相手が幸せでいてくれること。
盲目になりがちな恋愛中の気持ちを、改めて文字で目の当たりにすると、ハッとさせられることがある。たいが氏は、誰もが抱えたことのある“繊細な気持ち”を言葉巧みに言い当ててくれるのだ。
女の子として育てられた生い立ち、生きづらさの正体と向き合ったLGBTの悩み
さて、気になるのがたいが氏の価値観形成の秘密だ。いかにしてこのような感性を持つようになったのか。その答えは、彼の特異な生い立ちにあるといっても過言ではないだろう。
小さい頃は女の子として育てられ、初めて好きになったのは同級生の男の子だった。高校時代には男同士で付き合うことのむずかしさを経験し、大切な友人の自死から学んだ“性的マイノリティとしての使命”を抱えている――。
詳しくは本書を読んで確かめていただきたいが、たいが氏の魅力は「どこかあやうげだが芯の強さがあり、我々を惹きつけるものがある」とだけここでは言っておこう。「百年あろうが、一万年あろうが、好きという気持ちを相手に伝えきれない」と言い切る彼自身の人間性も、本書の見どころのひとつなのである。
貪欲に愛と向き合ったジェンダーレス男子の初エッセイ。今季必読の一冊だ。
文=岡村かなを
【著者プロフィール】
たいが
若い世代を中心に熱狂的支持を集める新世代・ジェンダーレス男子。端麗な容姿や「心に突き刺さる」つぶやきが魅力で、1投稿につき数千単位で「いいね」がつく。今後の多様な活動も要チェック。
Twitter:@05244572TT
Instagram:@tt05244572
TikTok:@taiga05244572