「オールスター反社祭」「加藤四五六十二段」…小ボケが冴えるナイツのラジオ時事漫才
公開日:2020/9/12
「あるブスの少女ハイジ」「となりのメトロ」「世界でも3本の指が入る映画監督」。2008年度のM-1決勝では、約3分間のネタにそうした小ボケを37も詰め込むなど、小ボケ&ツッコミを畳み掛けるスタイルでおなじみのナイツ。
代名詞の「ヤホー」に象徴されるように、「身近な言葉を言い間違える小ボケ」は誰でも楽しく笑えるもので、その笑いのスタイルは親しみやすさも満点だ。
TBSラジオ『ナイツのちゃきちゃき大放送』(土曜日の午前9時~13時)のオープニングで毎回披露してきた時事漫才は、そんな彼らの真骨頂。「まだ朝の時間帯」「リスナーの年齢層も幅広い」という芸人には難しい状況のはずなのに、いつ聞いても楽しく笑えるのだ。
その時事漫才が1冊の本になったのが『ナイツ午前九時の時事漫才』(TBSラジオ『土曜ワイドラジオTOKYOナイツのちゃきちゃき大放送』編/駒草出版)。200回を超える過去の放送から、77本の時事漫才を抜き出した内容だが、やはり文字で読んでも面白い。
たとえば、加藤一二三九段が引退した時期の時事漫才では、冒頭近くで以下のようなやりとりがあった。
塙 将棋界のレジェンドが引退しました。現役最高齢棋士だった加藤四五六……。
土屋 一二三だよ! 一、二、三で、ひふみ!
塙 加藤四五六、十二段。
土屋 加藤一二三、九段ね! 全部、3ずつ多いんだよ!
(『ナイツ午前九時の時事漫才』より)
こうしたくだらない名前の言い間違えは、ベッドで寝ぼけて聞いていても思わず笑ってしまう。続けて「十二段」と段数まで3つ間違えて、ボケ→ツッコミ→ボケ→ツッコミがリズムよく畳み掛けられるのも心地いい。
またナイツの言い間違えは「小ボケ」とよく言われるが、ワンフレーズの破壊力は「小」どころじゃなくメチャクチャ高いんだな……と感じるネタもあった。たとえば森昌子の芸能界引退の話題では、
塙 森昌子さんは13歳から歌手として活躍してるんですよね。デビュー曲「せんこう」は大ヒットしました。
土屋 「せんせい」だよ! 不良か!
(『ナイツ午前九時の時事漫才』より)
というやりとりがあった。曲のイメージが一言で台無しになる見事なボケである。
また島田紳助の話題になった回では、彼の司会番組を『オールスター反社祭』と言い間違える危険なボケも披露していた。
「島田紳助さんが芸能界を引退したのは……」などと野暮な説明をせずとも、その一言ですべてが伝わり、しかも笑えてしまう。文字で読んでみて、その小ボケの見事さにあらためて感動してしまったのだった。
『ナイツのちゃきちゃき大放送』の時事漫才では、芸能人の不倫や、昨年のワイドショーを席巻した芸人の闇営業問題など、芸能人の立場では触れづらい話題も積極的に取り上げている。そしてどの話題もキッチリ笑いに昇華している。
たとえば闇営業問題について触れた回では、表向きは陸上100mのサニブラウン選手のことを話しつつ、「あの筋肉、カッチカチでしょ?」「腕の振りの速さね。そこに注目してもう一度映像で、右ひじと左ひじを交互に見てくださいよ」と該当芸人のネタを次々と会話に投入。芸人の名前を一切出さずに闇営業を笑いのネタにしていた。
危険な話題に触れるネタは、「過激なもの」と取られがちだが、ナイツの時事漫才はそうではなく、不思議とほっこり笑えてしまう。物凄く考え込まれたネタなのに、何も考えずに爆笑できる。そうした彼らの時事漫才は、土曜の朝の空気に本当にピッタリなのだ。
筆者はTBSラジオを目覚まし代わりに流しているのだが、寝坊気味の朝に彼らの時事漫才を聞くのは、土曜日の1つの楽しみになっている。その空気感を体感できる本書は、ナイツのファンや番組のファン以外にも手にとってほしい1冊だ。
文=古澤誠一郎