「愛の不時着」と「梨泰院クラス」 大ヒット韓国ドラマに共通するテーマと次なる注目作は?
更新日:2020/10/7
もはや「現象」といっていい大ブームを巻き起こしている韓国ドラマ「愛の不時着」と「梨泰院クラス」。ここ数年BSやCSを主戦場に根強いファンを獲得してきた韓ドラだが、ここまで広い層を巻き込んでのブームとなると「冬のソナタ』や「宮廷女官チャングムの誓い」以来だろう。かく言う筆者もこの自粛期間中に観た2作品をきっかけにどっぷりハマり、週1で韓国風フライドチキンをデリバリーする生活を送ることになった(「愛の不時着」を観ていると、どうしてもフライドチキンを食べてビールが飲みたくなるのだ。同じように「梨泰院クラス」を観るとチゲを食べてソジュを飲まずにいられない)。
財閥令嬢がパラグライダーで期せずして北朝鮮に降り立ってしまうところから始まる「愛の不時着」は、主人公の令嬢ユン・セリと北朝鮮の軍人リ・ジョンヒョクによるロマンスだ。韓国のみならず世界中の人にとって究極の異文化ともいえる北朝鮮を舞台に展開するラブストーリーは、ドラマの後半に進むにつれて、北の文化や社会制度の決定的な違い、歴史の重み、双方政府の思惑、主人公ふたりの家庭が抱える内情などによってどんどん複雑に入り組んでいく。結末こそ清々しいまでのハッピーエンドだが、その恋の成就の仕方もなお、かなり特殊なものだ。
一方、パク・セロイというひとりの青年が、父を死に追いやり、自身も刑務所送りにした大財閥一家への人生を懸けた復讐譚である「梨泰院クラス」。復讐といっても血なまぐさいものではなく、全国区の巨大飲食チェーンを営む仇敵に、同じく飲食店ビジネスで戦いを挑んでいくのだが、じつに10年単位の時間軸で描かれるその本筋に絡んで、セロイとふたりの女性をめぐる恋模様や、彼の経営する店に集ったメンバー(ソシオパスであるヒロイン・イソをはじめ、元ヤクザ、トランスジェンダー、アフリカ系韓国人、財閥会長の婚外子という面々)が抱える問題が描かれる。
2つの作品はジャンルも作風もまったく違うが、並べてみるとそこには、たとえば今年のアカデミー賞で作品賞を受賞したポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』にも通じるテーマ性を感じることができる。そのキーワードは「多様性」と「多層性」だ。「家族」の多様なありかたとその共生の可能性という問題提起をはらんでいた『パラサイト』と同様、ここには異なるバックグラウンドをもつ人間どうしが文化や出自の壁を乗り越えどのように関係を作っていくかというテーマが横たわっている。財閥や軍に象徴される旧弊的で硬直した組織が立ち向かうべき「敵」として設定されるのもそのためだ。その現代的なテーマを、毎話ちゃんと山あり谷ありのエンタテインメントとしてまとめあげたところに、これらの作品の魅力はある。
韓国で「不時着」や「梨泰院」をしのぐ人気と評価を得た「椿の花咲く頃」、「梨泰院」でも人気を得た俳優キム・ドンヒが主演する「人間レッスン」など、Netflixで観られる作品だけにかぎってもそのテーマは形を変えつつ貫かれているが、その意味でもっとも注目すべき作品が、先ごろ最終話が配信され、「不時着」に続くヒット作となっている「サイコだけど大丈夫」だろう。精神病院でヘルパー(韓国語では療養保護士)の仕事をする主人公の青年と、感情を理解できない童話作家、そして自閉スペクトラム症と戦う主人公の兄という3人の関係性が軸になっていて、それぞれに乗り越えるべきトラウマを抱えている。「不時着」や「梨泰院」にハマったなら、絶対に感じるところのあるドラマだ。
文=小川智宏
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