尼神インター・誠子さんが語るブスと呼ばれることへの本音
更新日:2020/9/25
「お前ブスだなぁ…!」と、舞台で先輩芸人にいじられるのはお笑いコンビ・尼神インター・誠子さん。
いつも笑顔の印象がある誠子さんですが、その裏側には地味でネガティブ、容姿がコンプレックスだった過去があると言います。なぜ「ブス」と言われて笑えるのか、どのようにコンプレックスをポジティブに変換できたのか。あえてブスを「B」と表現し、心の声を文に綴った初めての著書『B あなたのおかげで今の私があります』(尼神インター 狩野誠子/KADOKAWA)が9月28日に発売されます。お話を伺いました。
ブスと呼ばれることの本音
――誠子さんにとって初めてのご著書になりますが、もともと読書が趣味だったとか。
尼神インター・誠子さん(以下、誠子): 特に小説やエッセイが好きで、恩田陸さんや森見登美彦さん、先輩の又吉直樹さんの本は愛読書ですね。気に入った作品は何度も読み返すタイプで、恩田陸さんの『球形の季節』や『六番目の小夜子』、『夜のピクニック』はもう何十回読んだことか。物語の世界に入りたい、浸りたいって思います。本好きが高じていつか私も本を出したいと思っていたので、出版のお話を頂きうれしかったですね。
――今回のご著書にはかまいたちの山内(健司)さんや学天即の奥田(修二)さんをはじめ、先輩芸人のお名前もたくさん登場します。
誠子: お2人のことを本に書いて良いか確認したところ、山内さんは「おめでとう、良かったなぁ!」と言ってくれ、奥田さんは「えーよ、好きにしてくれ」って(笑)。奥田さんは私がプレゼントした香水を、平気で雑誌の読者プレゼントの景品にしたりと、特に女性から悲鳴にも近い感想が寄せられていますが、私は大好きです(笑)。
――ところで直球ですが、先輩の男性芸人から「ブス!」といじられるのってどう思いますか? 正直傷ついたりしますか?
誠子: まったくないですね。むしろ、芸人としてめっちゃうれしい。舞台で先輩が「ブス!」って言った瞬間、客席からドッと笑いが起きるんですよ。どんどんいじって欲しいですね。
――それは芸人になったからこそ受け入れられるのでしょうか?
誠子: 確かに学生時代は容姿がコンプレックスで、同級生に「ブス」と言われて悲しかったです。そもそも当時は超地味でネガティブ、自分に自信がなくて、自ら人に話しかけることもできないし、男子とも一切喋りませんでした。
芸人になったきっかけは、高校3年生のときにたまたま「M-1グランプリ」でチュートリアルさんの漫才を見て、衝撃を受けたことですね。実家ではあまりバラエティ番組を見せてもらえなかったのですが、お笑いを知らなかった分、漫才を見たときの衝撃が凄くて、私も芸人になりたい! って思いました。お笑いが好きになってから、これなら自分の見た目も活かせるんじゃないか!? という順番ですね。
――でははじめから「B(=ブス)」でやっていこうと?
誠子: それが意外と芸人1年目のときは、「B」を武器にしなかったんです。「言葉だけで笑いをとりたい」とか、少し尖っていた部分もあったのかな。ただ、ネタも分かりにくいしウケも悪い。舞台で前に出たくてもタイミングがつかめないし、自分の笑いのとり方も分からなくて…。
すると先輩の男性芸人が「俺が何とかするから前に出てみて」って言ってくれて、舞台で先輩が「お前いくつやねん」とかいろいろツッコミを入れながら「ブス!」と言った瞬間、客席がドッと沸いたんです。あ、すごい! めちゃくちゃウケとるやないかい! ってビックリして。こんなにシンプルにウケるし、私でも笑いをとれるんだと驚いた瞬間です。
先輩に笑いのコツを教えてもらってからネタもどんどんウケるようになり、自分の中で強みと言えるものができた気がして心強かったですね。
――愛情があるゆえの「B」なのでしょうか。ただ、大阪では「B」はウケて、東京では反応が違ったとか。記者(松永)はずっと関東在住ですが、人に「B」と言ったり聞いたりした場面があまりなくて、ご著書を読んで驚くことも多く…!
誠子: やっぱり特徴を捉えて口にしたり、いじったりするのは関西ならではの文化もあるかもしれませんね。逆に東京の先輩から「ブス」ってあまり言われないのでびっくりしましたが、どちらも優しさなんですよね。
関西の先輩は、親しみや愛嬌たっぷりに言ってくれるし、「ブス」という言葉にすると同じ言葉でも、単に「ブス」と言っているだけではないんです。誠子をウケさせてあげたい、誠子を芸人として輝かせてあげたいっていう意味のブスなんですよ。だから悲観ではなく言って欲しかったし、ウケたことが何よりうれしい。やっと自分の居場所を見つけられた感じです。
可愛くなろうとする過程が可愛い
――誠子さんは芸人として「B」を活かせるチャンスがあると思いますが、一方で一般の方は容姿についてコンプレックスを抱いている人も多いかもしれません。
誠子: 自信がない部分って大事だと思うんですよね。逆に、私超最高! 全部完璧! っていう人、やばい…というかそんな人はあまり相手の気持ちを考えられないんじゃないかな。コンプレックスを持っているということは、自分を丁寧に見ているし自分と向き合っている証拠。たとえ負の感情が湧いたとしても、もっと自分を良くしたいという気持ちがあるからこそじゃないですか。自分を諦めていないし、向上心もある。そうやって内省をしている人は絶対に魅力的だし、その魅力に気づいている人は必ずいると思います。だから、コンプレックスがある人って私の中では素敵なんですよね。
――特に女性は男性と比べてシミや皺など老化を気にしたり、美人な人も必ず年齢を重ねます。そういった見た目の変化についてどう思いますか。
誠子: 私、好きって言ったらおかしいかな…、目じりの皺とか好きなんですよ。若いころは皺ができたら嫌だとか、歳をとるのが怖い! と思っていましたが今は違う。自分でもなんでだろうって考えたら、加齢って自分がここまでちゃんと生きてきた証だし、そもそも私は生きていることに感謝しているところもあり、魅力でしかないですね。もちろんピチピチした可愛いフレッシュさの魅力もあるんですよ。でも皺は皺じゃない、歴史だと思います。だから皺っ皺のおじさんとか好きだし、その人の生きてきた年輪のように感じて逆に愛おしい。人間の奥行き、魅力が出るなぁって。でも、加齢に対し美容を頑張るっていう気持ちは可愛いと思いますよ。
――可愛くなろうとしている過程が可愛いと。
誠子: 私、メイクした顔じゃなくてメイクしている途中の顔がすごく好きなんですよ。綺麗な女優さんを見るよりも、SNSやYouTubeで「このコスメめっちゃ良かった!」とかやってるのを見るのが好き。可愛くなろうとしているプロセスって可愛い! って思いますね。
コンプレックスに勝るもの
――「ブス」がおいしいと思う一方、ルッキズム(外見至上主義)について難色を示す人もいますが、どう思いますか。
誠子: 最近特にそういった話を聞きますよね。本では分かりやすく「ブス」としていますが、顔について書きたかったというより、誰にでもあるコンプレックスについて書きたかったという思いがあります。自分の顔を受け入れようではなくて、自分のコンプレックスをポジティブに受け入れるきっかけになったらいいなと。
コンプレックスを卑下したり、ネガティブなままにしておくのではなく、ポジティブに変換できたらいいし、自分と向き合ってみることで人に対しても向き合い方が変わったらいいなと。
――学生時代は美人の双子の妹たちと5年間口をきかなかったとか。
誠子: この本を書くにあたって妹たちに当時のことを聞いてみたら「お姉ちゃんが私たちのことを嫌いやから私たちも話しかけなかった」と言われ、私は自分がブスだから話してくれないんだと思っていました。今思えば卑屈になって妹に嫉妬していたと思うし、自分が自分のことを好きになれない理由を妹たちになすりつけていたかもしれない。妹ではなく自分の問題だなって気づきました。
私は芸人になって自分の居場所や自信が持てたし、当時コンプレックスでしかなかった顔が、今は親と似ている部分はうれしく思います。些細なことがきっかけで、人生がポジティブに変換できることもあるんですよね。
人の魅力はパッと目に見える部分だけではなくて、容姿よりも内から湧き上がってくる表情が素敵だと思うんです。私はよく、ほんこんさんと似ている、と言われますが、笑っているときは本田翼ちゃんと似ているし(笑)、みんなにもやっぱり笑顔でいて欲しい。読者がこの本を読んで、少しでも自分のことが好きになるきっかけになったらうれしいですね。
取材・文=松永怜 写真=島本絵梨佳