こうして無敵のキャラクターは生まれた! YouTubeで大人気のマンガチャンネル「ヒューマンバグ大学」佐竹博文誕生秘話【前編】
更新日:2020/10/14
総再生回数、7億を超える、ちょっとダークなマンガ動画チャンネル「ヒューマンバグ大学」。その中において、強烈な存在感を示すのが佐竹博文。最初は死刑囚を描くスポットキャラクターだったはずが、いつの間にか、不思議な人気を獲得している。
そんな佐竹博文を主人公とした書籍『誰も教えてくれないダークな世界を覗く ヒューマンバグ大学 佐竹博文の壮絶な人生編』(KADOKAWA)の発行を記念して、その生みの親であるプロデューサーの平山勝雄氏と、中の人として知られる、声優のヤシロこーいち氏の対談が実現。名物キャラクターの誕生秘話を、ご覧あれ。
佐竹にハマったヤシロ氏の声
――「ヒューマンバグ大学」の制作では、いつも細かくやりとりされているおふたりだと思いますが…。
平山
実は、顔を合わすのは、今日がはじめてなんですよ(笑)。
ヤシロ
そうなんです。なにせ、僕の半分は名古屋の味噌煮込みうどん屋「まことや」の支店長ですからね。そうそう会えない。
平山
さらに佐竹博文を描いてくださる、マンガ家の御米椎(みよねしい)さんは、北海道です。めっちゃ、リモート状態で制作しているのが、「ヒューマンバグ大学」なんですよ。
ヤシロ
ウチも、そこにいる社長(同席していたヤシロ氏所属のAdroaig社長、畑耕平氏)が姫路(兵庫県)で、僕は名古屋(愛知県)。ナレーター手配をしてくれる社員さんは滋賀県です。めちゃくちゃ、リモート。それでできてしまうのが、現在の動画制作環境ですね。
――ヤシロさんが佐竹をやるきっかけは、どういうものだったんですか?
ヤシロ
最初、社長のところに平山さんから依頼があったんですよ。実は、「ヒューマンバグ大学」がはじまったころって、動画のナレーションは女性が主流だったんです。でも、あのシビアな内容です。平山さんも社長も、男性ナレーターしか、ありえないとなった。社長は自分もナレーターですからね、最初は自分でやろうかと思ったそうです。でも、「むしろ、ヤシロにやらせた方がいいかも」と思ってくれたんです。
平山
ヤシロさんはね、本当に内容を深く読み込んでくれるナレーターさんなんですよ。たとえば、「ヒューマンバグ大学」では、シリア内戦のような、残酷な状況を描くときもある。そんなとき、絞り出すような声を出してくれたり、あえて、感情のない棒読みになったり、工夫してくれる。抑揚もあって、できあがったときに、自分たちが、「こんなにいいもん書いてたんか!」と思わせてくれる。
ヤシロ
アニメなどで活躍する、声優さんのようには、僕はできないんでしょうね。元々は、社長と声マネやモノマネやって遊んでいたんですけど。
平山
戦国武将の槍とかって、左右にも刃が飛び出してたり、二股になってたり、補助的な何かがついてるのがありますよね。でも、ヤシロさんは違う。まっすぐの1本の穂先で、勝負できるタイプ。ひとつだけでスゴイ。
ヤシロ
佐竹博文もそこがハマったのかもしれません。
人間味を獲得し、歩きだした佐竹
平山
佐竹は死刑を説明するためだけのキャラクターだったんです。でも、ヤシロさんの声と、御米さんの絵が加わって、人間味が生まれた。「ママーッ!」って叫ぶところとかね、圧巻です。
ヤシロ
あれ、やってくださいって、あちこちで言われるんですよ(笑)。
平山
この前もネットで、ヒカキンさんが佐竹の声マネしてたからね(笑)。
ヤシロ
気がつけば、動画チャンネルのナレーターも男性が増えましたね。最初は、女性ナレーターの方がいい、とかコメントされてたのに。
平山
そうそう。そこはヤシロさんの功績は大きいですよ。あっちもこっちも、男性ナレーター(笑)。
――さて、そんな流れで登場した佐竹博文ですが、いつの間にか、人気キャラクターになっていますね。
平山
そのあたりは、書籍の方で詳しく触れているんですが、声のヤシロさん、絵の御米さんの組み合わせで、不思議な人間味を佐竹は獲得してしまった。すると、僕の方でも考えるようなります。「どんな人生だったんだろう?」と。
ヤシロ
僕は完全に1話のみのキャラクターだと思ってましたからね。『機動戦士ガンダム』のギレン・ザビの声をやられている銀河万丈さんのイメージで、ドスを利かした声で演じていたんです。
平山
でも、佐竹再登場(笑)
ヤシロ
「うわ、また来た!」と思いました。で、間違えたかな、と考える。ヨットスクールに放り込まれたり、災難ばかりだけど、いつのまにか、「どこにでもいるサラリーマン」であることも多い。少しずつマイナーチェンジして、今はほぼ、僕の地声です。
平山
実は、佐竹を主人公として死刑を描くことで、社会への問題提起となり反響があると思ったんです。それがあるから、「ヒューマンバグ大学」をはじめたと言ってもいい。実際に大きな反響をいただきました。佐竹の人生は死刑という終着点なのです。そして、このチャンネルは病気や事故といった災難を描くことがテーマですが、佐竹が登場すると言うことは、もう死なないんです。最後は死刑なので、登場しているシーンは全て過去なのです。ある意味、不死身と言う事ですね。
ヤシロ
毎回、壮絶な災難に遭ってますけどね。
平山
致命率40%のコンゴ熱でも生還しましたからね。でも、狂犬病にはなれない。あれは、致命率100%なんです。佐竹でも無理なんで、これは患うことないですね(笑)
後編に続く
取材・文=新宮 聡(企画室ノーチラス) 写真=熊野淳司