「ヒューマンバグ大学」の超人気キャラ・佐竹博文はなんでここまで災難に遭うの? 不幸のネタ元は【後編】
更新日:2020/10/14
総再生回数、7億を超える、ちょっとダークなマンガ動画チャンネル「ヒューマンバグ大学」。その中において、強烈な存在感を示すのが佐竹博文。そんな彼を主人公とした書籍『誰も教えてくれないダークな世界を覗く ヒューマンバグ大学 佐竹博文の壮絶な人生編』(KADOKAWA)の発行を記念して、その生みの親であるプロデューサーの平山勝雄氏と、中の人として知られる、声優のヤシロこーいち氏が対談。前編では佐竹誕生の秘話などが語られたが、今回はその制作風景などについても、聞いてみた。
▶前編はこちら
内容的な佐竹の中の人は、平山氏の実弟?
――さて、「ヒューマンバグ大学」の中では、佐竹博文が毎度のように、とんでもない災難に遭遇しています。ネタはどうやってつくられるんでしょう?
平山
「ヒューマンバグ大学」は、複数の放送作家が書いてきたネタから、おもしろくなりそうなものを選んで、シナリオ化して制作するスタイルですね。
ヤシロ
けっこう、怖い話もありますね。
平山
それについては、実は自分の弟の実体験が関係しています。身内をこういうのもなんですが、変わった男でね、かつて、家を出て各地を放浪したことがあるんです。佐竹が大阪近辺でひどい目にあった話は、たいてい、彼の実話です。
ヤシロ
その弟さんが書いた話も多いとか。
平山
そうなんです。高校で小説のクラブに入ってたくらいなんで、書くのは好きらしい。で、あるとき、飯でも食おうと呼んだんです。そして、いろいろ聞くとネットで小説を書いているという。どんなものかと見てみると、フォロワーが10万人! ネットはこっちの専門です。その数の意味はよくわかります。隠れた才能を見つけた気分になって、「なんか書いてみろ」と言いました。すると、全200コマの超大作(笑)。そのままでは使えないけど、中身はおもしろい。
――それで、弟さんが、作家陣に加わったわけですか?
平山
そうなりました。今でもスゴイネタが来たな、と思ったら、弟のものであることが多いんです。でも、彼は放浪中に、いろいろとやらかしてくれましたからね。お金をあげて、助けたこともありました。まさか、数十年過ぎて、佐竹で回収することになるとは…。まあ、今回の書籍では、そんな彼が未公開の作品を多数公開しています。佐竹の生い立ちや日常もありますし、人気動画の間を埋める「佐竹博文の逃亡」もある。
ヤシロ
無一文で逃げる話ですね。実は、ウチの社長も放浪癖があるんですが、水が飲めないときの恐怖は、飢えじゃないらしいですね。「もう、2度と水を飲めないんじゃないか」と考えてしまうことが一番怖いらしいです。
平山
それ、めっちゃいいですね。いつか使いましょう(笑)
苦しみのプロが生み出す、佐竹ボイス
――では、ヤシロさんの声の収録はどんな感じなんでしょう?
ヤシロ
うどん屋の支店長で、宅録ナレーターですからね。うどん屋の上で、やっています。できあがったマンガのときもあれば、シナリオやラフ画のときもありますが、それをパソコンで見ながら、声を入れていく感じです。
平山
佐竹に魂を入れるのがヤシロさんですからね。佐竹の魂は、うどん屋で生まれる(笑)
ヤシロ
余計なアドリブ入れて、よくカットされるんですけどね。あれ、やっていいんですかね?
平山
バンバン入れてください。で、こっちはバンバン、カットします。そして、少し残るくらいがいい(笑)
ヤシロ
佐竹の車が爆発して、ボーンバーマンと呼ばれる話があるんですが、せっかくだから、最後にゲーム会社の名前を入れたんです。当たり前ですけど、バッサリと切られましたね。
――さて、今後も佐竹博文は活躍していくことと思います。彼をつくりあげていく中で、気をつけている点などは、ありますか?
平山
これはとても重要なことなんですが、佐竹が死なない、死ねないというのは、あくまで、こちら側の視点だということですね。つくり手も、視聴者も、佐竹が助かることはわかっています。でも、佐竹自身はそれをわかっていないことが大事なんです。だから、緊迫感が生まれる。シナリオの段階で、予定調和になっているときは、バッサリとやりますね。
ヤシロ
毎回、佐竹は驚かないといけないんです。「何があったんですかっ!」って、医者に聞くのが彼です。だから、佐竹が苦しむときは、こっちも必死に苦しみます。痛いのは胃なのか、腸なのか、どう痛いのかを考え、そこに手を当て、苦しみながらやってます。
平山
さすが、苦しみのプロ(笑)
ヤシロ
毎回、入り込んでやっているので、よく、マイクに頭をぶつける(笑)。でも、お腹を殴られて「ウッ!」となるのと、顔を殴られて「ウッ!」と声が出るのは、やはり違うべきなんです。だから、わき腹押さえて奇声を出したり…。ただし、あれはやってないですよ。「肛門日光浴」。なんかスゴイ声出してたんですが、やってません。
平山
普通にやって、あの声は出ませんよ。
ヤシロ
違う! あれは、技術!
平山
まあ、そんな感じで、佐竹同様に、作り手側も必死になってつくっているのが、「ヒューマンバグ大学」です。今回の書籍と一緒に、楽しんでいただければ幸いですね。
ヤシロ
今後も、壮絶に苦しんでいきますので、ぜひ、佐竹ボイスを楽しんでください。
取材・文=新宮 聡(企画室ノーチラス) 写真=熊野淳司