堤 真一×石田ゆり子対談! 息子は殺人犯なのか、被害者なのか――? 雫井脩介の渾身作『望み』が映画化!
公開日:2020/10/6
10月9日公開の映画『望み』。雫井脩介の渾身作が待望の映画化とあって、ダ・ヴィンチ読者も楽しみにしている人が多いだろう。自身の子が行方不明に。あの子は殺人犯なのか、それとも被害者なのか……。緊迫した物語の父母を演じた、堤真一さんと石田ゆり子さんにお話を聞いた。
最初は父親でなく息子の気持ちで台本を読んだ(堤)
――今回、堤さんは息子が被害者であったとしても殺人犯ではないと信じたい父親を、石田さんは殺人犯であってもいいから生きていてほしいと祈る母親を演じられました。それぞれの役をどう思われましたか?
堤 どうなのかな……僕には娘がいるんですが、娘が大きくなって、例えば法を犯すようなことが起きた時、自分は一体何を気にするだろうと思いながら演じていたところはありました。この父親と同じかというと、ちょっと違うかもしれないですね。僕にもし息子がいてこういう状況になったとしたら……法より何より、俺が裁いてやるみたいな気持ちになるかもしれない。やっぱりこの父親と同じように、社会的なことを考えているんでしょうね。
――石田さんは「一切の異論なく彼女(母親)の気持ちがわかります」とコメントされていました。
石田 はい。「とにかく生きていてくれ」という気持ちだけ、というのは、シンプルにわかるなと思いました。それ以外考えられなかったですね、私は。お母さんってそういうものかなと……息子が何かの拍子に人をあやめてしまっても、なにか理由があったんだろうと考える。悪人ではないと信じている。寄り添いたい、というのはすごく母親的だなと思いますね。
堤 僕、実は台本の段階では、息子の規士の立場で台本を読んでいたんですよ。共通点がいろいろあって。彼はサッカーをやっていて辞めざるを得なくなりますけど、僕は野球をやっていて、自らですが辞めてしまい、そこから学校に行っている意味がないと思うようになった。急にぽかんとやることがなくなってしまったんです。
――確かに規士ととても近いですね。
堤 学校には行かず、家を出てそのまま喫茶店で1日過ごしたりして……特にケンカをするわけでもないんですけど、母親にはひどいうわさが色々入ってくるわけですよ。僕が暴走族に入って、赤いジャンパーを着てバイク乗っているのを見た!とか(笑)。母親にはそれが精神的にかなり負担になっていたみたいで……でも「どう言われていても、私はあんたを信じる」と言ってくれた。それで僕はこの人のために悪いことをしちゃいけない、この人を傷つけるようなことはしちゃいけないんだなって、思ったんですよね。父は無口な人で何も言わなかったので、どう思っていたかはわからなかったですね。父親と母親との違いというのは、やはりあるかもしれないですね。
――まだ何もわからない段階から規士の犯人扱いが始まり、ネットでも地域社会の中でも、叩く、排除する、という状況が描かれていました。現代を映しているようにも思ったのですが、その渦中の人を演じてみて、どんなことを感じられましたか。
石田 こわいなと思います。人の命が関わっていなければ、「別に関係ない」で済ますこともできるんですけれど、人の命が関わっていることを外野からああでもないこうでもないと言われるというのは……なんてお答えしたらいいのか……想像もつかないですけれど、つらいですよね。
堤 人間って、こわいですよね。家にらくがきをして君たちに何の得があるんですか?って思ったし、ネットの意味って何なのか?って思ってしまいますよね。事実ではなくてそれぞれの憶測を書きこむだけですよね。それに対する責任もとらないし。情報を調べるには便利ではありますが……そんなことを言うと、僕は令和の時代の人間ではないですね(笑)。
石田さんの天然なところに和まされました(堤)
――お2人は初共演だそうですね。
石田 今までずっと堤さんのドラマや映画、舞台を拝見していて、ぜひご一緒したいと思っていたんです。今回やっとご一緒できる!と思ってすごく楽しみにしていました。
堤 僕もそうですよ。シリアスなストーリーなので、普段の会話はなるべく明るくしようと話してはいたんですが、石田さんは本番でも天然なことを色々してくれて。
石田 そんなことないです。へんなこと言わないでくださいね……(笑)!
堤 (笑)。段取りを覚えるのが苦手みたいで。それですごくみんな和まされたというか。
石田 確かにしょっちゅう言われていましたね。「台本どおりにやらないよね」と(笑)。堤さんはさすがだなと思ったのは、全てが頭に入ってから現場にいらっしゃるんですよね。私は人がどう動くのかとか、そういうことばかり気にしてしまって、現場の空気優先というか……その時考えよう!みたいなところがあって。だからちょっと自分でやりやすいように勝手に変えてしまったり……すみませんでした!
堤 いやいや(笑)。面白かったですよ、本当に。
石田 洗濯物を畳みながらセリフを言う、とかそういう段取りが難しくて。舞台的な撮り方だったんですよね。ほぼ順撮り(※ストーリーの順番通りに撮影する)だったんですけど、同じ部屋で10日間ぐらい……もっとかな、寝ても覚めても同じ部屋で息子を待っているというシーンを撮って。最初の3日ぐらいは大丈夫だったんですけど、徐々に徐々につらくなって……最後は毎シーン泣かなきゃいけなくなる。だからもう洗濯物とかどうでもいい!みたいな気持ちになってしまって。ちょっと怒ってたんだと思う(笑)。
堤 それでも一生懸命やろうとしている姿が、なんかこうかわいいというか(笑)。本当にピリピリしていたら現場の空気が悪くなると思うんですけど、なんか穏やかな怒りなんですよ。石田さんが怒れば怒るほど僕はそれを見てクックッて笑ってしまう。
石田 とにかく私が何をやっても、堤さんがちゃんと受け止めてくださるので……もう本当にお父さんというか。みんな、本当に家族みたいな感じでした。
家族の雰囲気を出すのが、一番難しい(石田)
石田 現場は本当に楽しかったですよね。あ、常においしそうな食べ物がいっぱいあったんですよ。
堤 ずっと食べてましたよね。
石田 悲しい話なのに、ちょっとずつ太っていくという(笑)。
堤 ケータリングもあったし、ちっちゃいおにぎりを作っておいてくれたりね。
石田 そう! 幸せでした。
――食卓を囲むシーンもすごく自然で家族の空気感が出ていましたが、息子役の岡田健史さん、娘役の清原果耶さんとはどんなふうにコミュニケーションを取られていましたか。
堤 撮影に入る前に、監督も含めて、1回食事をしたんですよね。「初めまして」で「はい、ここから家族です、用意スタート!」って言われてもなかなか難しいから。でも、台本の話なんて一つもしなかったですけどね。
石田 確かに(笑)。数時間でしたけど、あの食事会はすごくありがたかったです。確かに家族の雰囲気を出すのって一番難しいですよね。わざとらしい感じになったりするし……家族ってそんなに仲良しこよしというものでもないだろうから。日常ですからね。
堤 最初に制作の方に相談した時は「じゃあ、みなさんでディズニーランド行きますか」って言われたんですよ。
石田 そんな話があったんですか(笑)。知らなかった。
堤 初めて会って「さあ何に乗りましょうか?」ってよけい変な雰囲気になれへん?って言ったんですけど(笑)。現場では、この作品について話すというより、日常的な話をしていましたね。子どもたちもかなりいろんな話をして。
石田 和やかな家族のシーンはほとんどないんですよね。緊張感はありました。岡田くんと果耶ちゃんは集中力があるから、ありがたかったというか……2人とも頼もしいなと思いました。すごくしっかりしていますよね。果耶ちゃんは本当にまだ10代なの?と思うぐらいで。むしろ、私のほうがしっかりしなければと思いました。
堤 岡田くんは、役では拗ねている男の子だけど、普段はほわーんとした明るくて素直な子で。とにかく2人とも若くて愛せる俳優さんたちだったから、気持ちよく撮影できました。
一人一人の違いを尊重し合うしかない(石田)
――事件をきっかけに、父と母そして娘それぞれの違う考え方が表に出てきますが、お2人は家族や近しい人との間で違いが浮き彫りになった時、どう関係を続けていかれますか。
堤 僕は年を取ってから結婚して子どもを持ったんですけど、基本的な考え方として持ってなきゃいけないなと思ったのは「子どもというのは、自分ではない」ということですね。自分の細胞の一部でも何でもないし、もちろん所有物でもない。娘の顔を見ながら、この子はどこから来たんだろう?といまだに思ったりもします。とにかく人間は一人一人違う。だから、家族であっても考え方が違うんだ、と。2人目が生まれたら、きょうだいでもこんなに違うんだ!と思いましたし。だから時には信頼関係が崩れたりすることがあるかもしれないけど、意見も価値観も変わるものだし……と思いますね。
石田 そうですよね。私の家族は生まれ育った家族になるんですけど、今堤さんがおっしゃったように、どこかでちゃんと他人であると思っていることが大切だなと思います。家族の中でも相性はありますし。両親とうまくいかないとき、目線を変えて「知らない人」だと思ってみると、うまくいったり……知らないおじいちゃんやおばあちゃんには優しくできたりするじゃないですか。それが親にはうまくできないのは、どこかで自分が甘えているからなんじゃないかなと思ったんですよね。
堤 うんうん。
石田 最近すごく思うんですが……きょうだいって本当にありがたいなって。子どもの頃は、妹とはすごくケンカをして「きょうだいなんていなきゃいいのに!」とか思うこともあったんです(笑)。でもちゃんと意味があって、神さまが家族にしてくれたんだなと思うようになりました。何か縁があって、家族になっている。尊重し合うしかないですよね、一人一人の違いを。
堤 本当にそう思います。
堤真一
つつみ・しんいち●1964年生まれ、兵庫県出身。2021年には、NHK大河ドラマ『青天を衝け』、映画『砕け散るところを見せてあげる』、映画『ザ・ファブル 第二章』の出演を控える。
石田ゆり子
いしだ・ゆりこ●1969年生まれ、東京都出身。88年ドラマ『海の群星』でデビュー。以降、ドラマ、映画、舞台、執筆活動など幅広い分野で活躍中。近年の映画出演作に『記憶にございません!』(ʼ19)『マチネの終わりに』(ʼ19)など。12月4日に『サイレント・トーキョー』が公開予定。
取材・文:門倉紫麻 写真:小嶋淑子
ヘアメイク:堤さん/奥山信次(Barrel) 石田さん/岡野瑞恵 スタイリング:堤さん/中川原 寛(CaNN) 石田さん/青木千加子
衣装協力(石田さん):ブラウス3万8000円、パンツ3万9000円(ストラスブルゴ TEL0120-383-653)、 ピアス5万5000円(ルドゥテ TEL03-5489-1377)、パンプス8万6000円(ロジェ ヴィヴィエ/ロジェ・ヴィヴィエ・ジャパン TEL0120-957-940)
映画『望み』
建築デザイナーの一登(堤)、フリー校正者の妻・貴代美(石田)、一流高校への受験を控えた中3の娘・雅(清原)の元に、高1の長男・規士(岡田)が同級生殺害事件に関与しているという報が届く。規士は加害者なのか、被害者なのか――。違う「望み」を抱きながら苦悩する家族の姿を追う。
出演:堤 真一、石田ゆり子、岡田健史、清原果耶、加藤雅也、市毛良枝、松田翔太、竜 雷太 監督:堤 幸彦 原作:雫井脩介『望み』(角川文庫刊) 脚本:奥寺佐渡子 配給:KADOKAWA 10月9日(金)公開