“認知症には脳トレが効く”に医学的根拠なし!? 認知症1000万人時代を迎える前に知っておくべき真実
公開日:2020/10/4
認知症を予防する方法は今のところ見つかっていないし、脳トレやサプリが効かない。「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」ための確かな方法はない。……と聞くと、認知症は発症してしまったら終わりで絶望しかないような気がしてしまうけれど、そうではない、と木之下徹氏は言う。『認知症の人が「さっきも言ったでしょ」と言われて怒る理由 5000人を診てわかったほんとうの話』(講談社)の著者で、日本ではじめて認知症専門の訪問治療を始めた医師だ。
必要なのは予防よりも備えだ、と木之下氏は言う。手洗いや食習慣の見直しなど、具体的な対策がとれる感染症や生活習慣病と異なり、認知症には防ぐための明確な手立てがない。だからこそ予防をうたう、医学的根拠のないビジネスが横行するのだけれど、「認知症にならないために!」と言えば言うほど、認知症はおそろしくて、避けねばならない病気となる。認知症になった人は、かわいそうで、困った人になってしまう。
けれど、病識(病気であると自分で認めること)がないと言われがちな認知症だが、本人たちは「自分は認知症ではないか」と疑っていることが多いし、発症したら人生はおしまいではなく、その後も長く続いていく。であれば、今のところ方法のない予防にしゃかりきになるよりも、「自分や身近な人がなったらどうすればいいのか」の知識を深めていくことのほうが大事ではないか、というのが本書の主旨である。
「頑張ればもの忘れを克服できるのでは」という思い込みも悲劇を生むひとつだという。これも「脳トレすれば認知症を防げる」の延長だと思うのだが、アルツハイマー型のように、海馬ならびにその周辺がやせていくタイプの認知症は、「記憶がしづらい」だけであって「忘れてしまう」わけではない。だから「すぐ忘れるんだから」「さっきも言ったでしょ」などという言葉が、相手を思いやってのことだったとしても、傷つけてしまうし怒らせてしまう。注意力の低下についても同じだ。「気をつけなさい」と再三言ったところで、機能が低下しているのだから、むりがある。
木之下氏の「足の悪い友だちに向かって『なんで走らないのっ』とは言わないでしょ。杖を持ってくるとか肩をかすとか、必要な配慮をしますよね。なのに記憶しづらい人に『なんで忘れるのっ』と言ってない?」という指摘には、はっとした。もしかしたらそれは、認知症に限らず、すべての人間関係において言えることなのかもしれない。
とはいえ、実際に家族が認知症になって、毎日ともに過ごさなくてはならなくなったら、わかっていても苛立ち、思うように優しくできないこともあるだろう。だから本書は、認知症になった方にどう接するべきかの参考、ではもちろんあるのだけれど、認知症に対する思い込みを変えて、自分自身も認知症になることを怯えすぎないための本なのだと思う。一人ひとりが「なったらおしまい」「でも頑張れば予防できる」の意識を脱ぎ捨てれば、見える解決法もまた違ってくるのかもしれない。
文=立花もも