不謹慎狩り、悪質クレーマー…彼らは“何者”なのか? 正義を振りかざす極端な人の正体

社会

更新日:2021/6/24

『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(山口真一/光文社)

 社会がどこかギスギスしているのは、新型コロナのせいだけなのだろうか? 外出自粛が叫ばれる中では「自粛警察」という言葉も話題にのぼったが、コロナ禍でネット上の炎上が加速したという指摘もある。
 
 そのメカニズムに迫るのが、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(山口真一/光文社)だ。タイトルにもある「極端な人」たちが目立つ社会の仕組みや背景を解説している。

炎上の背景には「マスメディア」の影響も?

 今年5月。恋愛リアリティショー「テラスハウス」(フジテレビ)に出演していた女子プロレスラー・木村花さんが、ネット上の誹謗中傷を受けてみずからの命を絶ったことは、多くの人に衝撃を与えた。

 こうした事件の背景には「社会に対して否定的で、不寛容で、攻撃的で、まさに極端な考え方を持っている人たち」がいると本書は解説する。

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 著者や慶應義塾大学の田中辰雄氏らの研究によれば、誹謗中傷を書き込む人は「ネット上では非難しあっていい」「世の中は根本的に間違っている」「ずるいやつがのさばるのが世の中」といった意見を持つ傾向にあり、ときには個人が大量のアカウントを作成して執拗に攻撃するケースもあるという。

 ただ、炎上に薪をくべるのはこうしたネット上の一部の人たちに限らない。その裏には「マスメディア」の存在があることも、忘れてはいけないと本書は指摘する。

 ひとたび火種が起こると、一部の「極端な人」たちの激しい書き込みが、リツイートなどによりネット上で拡散されていくのは事実だ。しかし、「ネットで批判や誹謗中傷が相次いだ」とマスメディアが報じることで、さらに対象への書き込みが加速していってしまうのだ。

炎上を起こす人たちにあるのは「正義感」

 炎上の発端となる「極端な人」たちは、内に秘めた「正義感」から書き込むことも多いという。

 本書にある、お笑い芸人・スマイリーキクチさんが長年にわたり殺人犯と誤解されて誹謗中傷にさらされた事件もその一例だ。この事件では十数名が書類送検されているが、執拗な書き込みをした理由に「凶悪犯人についてネット上で言及することで社会に貢献できる」と考えを明かした人もいた。

 しかし、なぜ彼らは“過剰な正義感”を振りかざしてしまうのか。その理由のひとつにあるのは「正義中毒」という言葉だろう。

 脳科学の研究によれば、人間は「正義感をもとに他人に制裁を科すことに悦びを抱く」といい、この快楽におぼれてしまうと、やがて「他人を許さずに正義感からさばくことで快楽を得よう」という習慣ができあがってしまう。さらに、誰かと繋がることができるネット上では「仲間と共に悪に対して正義の裁きを下している図式」が作りやすいため、現実社会よりも快楽の度合いが強くなりやすいという。

 炎上がはびこる社会に対して、著者は「不寛容」というキーワードを使っている。便利なはずのネットを通して、個人であっても自分を防衛しなければならない時代。本書をたよりに、現代ならではの生き方を改めて考えてみたい。

文=カネコシュウヘイ