たった10個の「魔法のことば」で子どもが変わる! 『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』石田勝紀さんインタビュー
公開日:2020/10/18
「支度に時間がかかる」「勉強してくれない」などの子育ての困りごと。もしかしたら、ある言葉がけをするだけで解消できるかもしれません…!
2018年に発売されてからついに10刷大増刷となっている、話題の子育て本『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』(集英社)。口コミで広がる人気の理由や活用法を知るべく、著者の石田勝紀さんにインタビューしました。石田さんは20歳で学習塾を始めてから、中高一貫私立校で常務理事に就任するなど、自己肯定感を高めながら学ぶことをテーマにのべ5万人以上の子どもたちに指導してきた教育者。同時に、ママたちを集めて開催する“ママカフェ”などで保護者の悩みにも向き合っています。石田さんによれば、子どもの自己肯定感は、親の機嫌や子どもの学力とも深い関係があるそうですが…。
子育ての最大の問題は、親の心が落ちていること
——2018年の刊行から約2年で10刷の大増刷となっています。子どもの自己肯定感が高まるのと同時に、勉強やしつけなど子育てに関する親の困りごとまで解決される内容が興味深かったです。支持された理由はなんだと思われますか?
石田勝紀さん(以下:石田):“自己肯定感”という言葉に多くの人が反応しているようです。自己肯定感を高める方法がいくつかある中で、この本では10個のシンプルな言葉をまとめているので、使いやすいし、お金もかからない、今すぐできるところが受けたと思います。「これなら私もできる」と親の気持ちが上がって、あとは言葉の力で子どもは変わりますよ、っていうすごい本なんです(笑)。
——もちろん、本当にすごい本だと思います(笑)。「1週間で子どもが変わった」という声も聞かれますが、自己肯定感がそんなに簡単に高まるものだとは思いませんでした。
石田:この本が支持された背景には、親もご自身の自己肯定感を上げたいという思いがあるのではないかと思っています。私は年間100回以上、全国のママとお話する「ママカフェ」を開催していますが(現在はコロナ禍で休止中)、子育ての最大の問題はママさんの心が落ち込んでいること。やっぱり忙しいんですよ。家事に子育てに、仕事もしていたらスーパーウーマン状態で、イライラしないほうがおかしい。だから、まずはママさんの心を上げるのがママカフェの狙い。イライラすると、子どもの欠点ばかりに目がいってしまうから。
——確かに「(子どもの)あれができてない」「これもやらない」と毎日気になってしまいます。
石田:それを言葉にして子どもに伝えちゃうでしょ? 人間っていうのは欠点を指摘しても成長しないんですよ。欠点は自分で自覚して直すもので、親がしたほうがいいのは子どもの長所を見つけて伝えること。長所って当たり前にできることだから、自分では気づかないものなんです。でも、親自身の心が落ちているとなかなか言えない。そんなとき、この本がママさんの心を上げるのにも役立ちます。
——子どもにはもちろん、親の心が落ち込んでいるときにも「魔法のことば」を使うということでしょうか。
石田:「魔法のことば」はポジティブになれる言葉が多いので、それを発する親自身も前向きになれて一石二鳥なんですよ。ママカフェもこの本も、ママさんの気持ちを変えて、それから子どもを変えるというロジックを狙っています。
自己肯定感と学力の関係性とは?
——「魔法のことば」は、「すごいね」「さすがだね」「ありがとう」などポジティブな言葉ばかり。どんなシチュエーションで使えるのでしょうか。
石田:お手伝いをしてくれたときに「うれしい」「たすかるよ」「ありがとう」とパンパンパンと続けて、気軽に言ってあげるといいですよ。学校で新しく習ったことを話してきたら「なるほど」「そうなのね」って聞いてあげるとか。ここぞというときではなく、日常の些細な一場面でバカバカ使うのがコツです。
——バカバカ…ですか。褒めすぎってことはないですか?
石田:“褒めて伸ばす”って正しいとは思うけど、褒めてくださいとは言わないようにしています。褒めるのもいいけど、わざとらしくなると子どもがしらけてしまうから、褒めるのではなく“承認”する。SNSの「いいね」って、大絶賛ではなく軽い言葉で認めているでしょ?
——「いいね」と言われると簡単にいい気分になれますね(笑)。では、「魔法のことば」で親自身も気分を上げながら、子どもの長所を本人に伝えていくことで自己肯定感は高まるのでしょうか。
石田:一番早いのは、成績を上げること。成績がいい子はそれなりに自己肯定感を保っているんですよ。なぜかというと、周りの大人が学校の成績で子どもたちの善し悪しを決めているからです。近所の子どもが受験でトップ校に受かったら、人間的によくできた子どもだと認識しがちですよね? そうでなければ人間性も低いようなイメージを持ってしまう。成績や学歴と人間性は本来関係ないのにね。ただ、いまの世の中では子どもたちの周りの人間がそういう見方をしているので、まずは学力を上げます。
——なるほど。勉強ができる子の自己肯定感の高さは、そういう仕組みなんですね。
石田:でもじつは、“子どもの能力をはかる尺度”は勉強や偏差値以外にもいろいろあって、思いやりの尺度、気づかいのレベル、物づくりの器用さなど、探したらいろいろ出てくる。これらの尺度は将来の成功には影響しないと決め込んでいる人が多いのですが。
学力でも、学力以外でも、長所を伸ばすことで21世紀の生き方につながる
——思いやりや手先の器用さが、将来の成功に影響するんですか?
石田:学歴よりも、そちらのほうが影響します。いわゆる非認知能力ですね。社会人になってから「どこの大学出身?」なんて聞かないでしょ。何ができるのかを聞いて、じゃあお仕事頼むよ、ってなる。プログラミングなり心理学なり、学力の上に自分なりの能力が付加されると、それが仕事となって成功するわけですよ。
ちなみに、学歴は会社に入るときにパンチが効くかもしれないけど、これからは業務請負の個人事業主がバンバン出てくる時代ですから。Googleが6カ月で大卒と同等だと認定するプログラムを発表しましたし、大学の4年間はもったいないかもしれない。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの4社をさす)が世界を支配していますから、これから学校教育の流れも変わるでしょうね。
——学力以外にも得意なことがある子にはチャンスが増えてきそうですね。
石田:正直、勉強に向いていない子っています。成績はノウハウで上げることはできますが、「君はその道じゃないよね」と。たとえばイラストが上手だからデザイン系に進んだほうがいい、とかね。そのほうがその子にとって幸せでしょう。そういう子はたとえ勉強ができなくても自己肯定感が高いです。親は勉強ができないと心配になりますが、勉強は平均そこそこでよしとして、そのぶん得意な分野で突き抜けさせる。ここからが大事なところなんですが、学力とは関係ない分野で自己肯定感が高まると、グルッと回って学力も上がり始めるんですよ。
——おもしろいですね! なぜそうなるのでしょうか…?
石田:長所が上がると自信がついて心の余裕が生まれるんです。長所を伸ばすことが人材育成の最大原則だから、短所はいじらない。短所は後から直そうとすれば自分で動き出せるんですよ。つまり、学力でも学力以外でも、いろんな能力のインジケーターが並んでいるとしたら、その子の一番高いところをさらに伸ばすということです。
——日本人は短所を引き上げようとする傾向があると、本書でも指摘されていました。
石田:日本では平均的な人間を目指しますからね。20世紀はそれでよかったけど、テクノロジーが進化したAI時代には、データ処理や計算など人がやらなくていいことが増えてくる。それがコロナ禍で少し早まってきましたね。じゃあ人間に何ができるのか? 平均的な教育を受けてきて何でも一通りできるけど、「あなたが特別にできることは何?」っていう問いに答えられないような人が危ない。少なくとも家庭教育では、その子が周りより突出しているような長所を見つけて自信をつけてあげると、21世紀の生き方、ひいては学力アップにもつながりますよ。
「10の魔法のことば」で伝えたいのは日々を楽しむ感情
——子どもの長所を見つけるためのコツはあるのでしょうか。
石田:注意したいのは、兄弟や周りの友だちなどと“比較しない”ことです。比較すると、だいたい劣っているところを比べてダメ出しをしてしまう。比較から悲劇が生まれるんですよ。でも当然、人間だから比較をしてしまう。子どものいいところだけを見ていくには訓練が必要でしょうね。
——いいところだけ見ていく。つまり、他の子どもより劣るようなことを目にしても気にしないと。
石田:子ども自身も、自分を他の人と比べる必要はないんです。“天然系”っているでしょ。名俳優に多いけど、あの方々は自分と他人を比較していませんよ。空気を読んでいないから。でも、ああいう人たちが上にあがっていっちゃう。
——子どもたちも、空気は読まなくていいんですか?
石田:だって、読んでいたら動けなくなるから。相手に合わせるのも重要だけど、それだけだと他人に合わせて生き続けることになって、とてもつらい。自分らしさを失うことにもなります。だから、バランスが大事ですね。相手に合わせながらも自分軸で意見を言えるようになれば、子どもは自分の長所を生かしていけます。
——本書では、自己肯定感を高めると自己主張ができる子になる、とも紹介されていますね。魔法のことば、がんばって使ってみようと思います!
石田:難しいけど、がんばって使おうとすると無理が出て、希望の裏に絶望を抱えやすいから、楽しみながら使ったほうがいいですよ。その言葉から子どもが汲み取るのは“感情”。たとえば親が怒っているとき、子どもは何も聞いていなくて、ただ「怒っているな」という感情だけを感じている。だからこそ、楽しいマインドで軽く声をかけたほうが、子どもの気持ちを効果的に和らげます。
——「魔法のことば」は、前向きな感情を伝える言葉でもあるんですね。
石田:言霊っていうくらいで、言葉は人を元気づけることも、ぶちのめすこともできる。本にも書いた「早くしなさい」「勉強しなさい」などの“呪いの言葉”も、使ってはいけないわけではなく、「魔法のことば」を増やした分だけ数を減らせばいい。完璧じゃなくてもいいんです。ただし、使用上の注意があるから、よく読んでお使いくださいってことで、注意点を本で紹介しています。たとえば、「すごいね」の後に「いつもこうだったらいいのに」という嫌味を加えない、とか。余分な一言でせっかくの魔法が消えちゃいますから(笑)。
——今日はこうして前向きなお話をしているだけでも楽しい気分になれました! 先生も日頃から「魔法のことば」を使われていると思いますが、いつでも前向きでいるための秘訣は何かあるのでしょうか?
石田:教えることによって教えられるって法則があるでしょ。教える立場になると本質が見えてくるから、自分が一番与えられているんです。だから、マインドを維持する秘訣は、講演会でもママカフェでも「アウトプット」すること。ポジティブなことを話すと自分の耳にも入ってくるから。もちろん人間だから、気分の上下はありますよ。でも毎日忙しくしているとマイナスになる暇がなくて、そのブレ幅が少なくなってくる。そのサイクルができているんです。
だから皆さんも、新しいことを覚えたらアウトプットするといいし、いい話を聞いたらシェアしちゃえばいい。それで誰が元気になれるって、一番はアウトプットやシェアをしている人。親がそういう前向きなマインドでいるほうが子どもは楽しくなるし、巡り巡って自己肯定感も高まっていくと思います。
取材・文=麻布たぬ 写真=松本祐亮