大物クリエイターと人気漫画家が強力タッグ! 在りし日の「美少女ゲーム業界」が赤裸々に描かれる
公開日:2020/10/20
現在、スマートフォンが一般に普及したため、据え置き型のデスクトップパソコンを所有している人は少なくなっていると聞く。10年くらい遡れば、デスクトップパソコンこそが一般的だったのだから、時代の流れは早いのである。もっといえば、そのパソコンすら1980年代は高級品だったのだ。それが徐々に普及しはじめたのは1990年頃だが、その普及に欠かせない存在のひとつが「エロゲー」である。エロゲーとはいわゆる18禁のアダルトゲームのことだが、現在では「美少女ゲーム」などと呼称されることも多い。『16bitセンセーション 1 私とみんなが作った美少女ゲーム』(みつみ美里、甘露 樹:企画・原案、若木民喜:漫画/KADOKAWA)は、美少女ゲーム黎明期を生きたクリエイターたちの奮闘を描いたコミックである。
原案のみつみ美里氏に甘露樹氏といえば、美少女ゲームブランド「Leaf」の原画家として有名であり、漫画を手がけるのは『神のみぞ知るセカイ』などの作品で知られる若木民喜氏。すごい顔ぶれだが、この作品を知らなかった人は意外と多いかもしれない。なぜなら本作はメジャー誌の連載ではなく、初出は同人誌だからだ。それでも90年代の美少女ゲーム業界をリアルに描いたこの作品が、単行本として発売され多くの人の目に触れる機会を得たのは僥倖であろう。
本作は1992年、大学生となった上原メイ子がとあるパソコンショップでバイトを始め、いつしかゲーム開発会社「アルコールソフト」のスタッフとして原画を描くようになるという物語。当然その過程では、当時の美少女ゲーム業界にまつわる話が織り込まれ、紹介されるゲームソフトはほとんどが実際に存在するタイトルである。
漫画を担当する若木氏は、美少女ゲームの創生期で最も重要なタイトルのひとつに『同級生』を挙げる。この作品から、ともすればエロの比重が高かった「エロゲー」から女子の可愛らしさやキャラクター性を重視した「美少女ゲーム」へと展開することになった、いわばターニングポイントだったと氏は語っている。漫画でもこの『同級生』登場以降、メイ子の先輩・下田かおりはゲームの内容をエロから恋愛や内面描写に力を入れるべきと考えるようになるのである。
このような美少女ゲームの歴史を綴りながら、同時に差しはさまれる当時の苦労話も興味深い。例えば原画をパソコンに取り込むスキャナーがまだ高価だった頃、家庭用のラップを使ってCGを描く「ラップスキャン」や、現在ではほとんど使われなくなったフロッピーディスクを当時は記録媒体として使っており、そのため収録枚数が大変なことになっていくなどといった業界事情が赤裸々に語られていくのだ。
実は私自身、かつて美少女ゲーム専門誌の編集をしていた時期があり、本書に描かれているさまざまな事柄が分かりすぎてしまう部分も多かった。なのでおそらく、同じ時代を生きた人であるなら当時の記憶が強烈にフラッシュバックされ、大いに楽しめることだろう。とはいえ、遺作さんのパロディなどはゲームをプレイしていないと分からないかもしれないのだが……。
文=木谷誠