大好きなイケメンに近づくために整形を繰り返した女の子の顛末。可愛く生まれなかったのは不公平?
公開日:2020/10/26
SNSで綺麗な子を見るたびに胸がザワつく。もしも自分がこんな顔だったら、もっと幸せな人生があったのかも…。そう思うと、生まれながらに与えられた「不平等」の重さに耐えきれなくなることも。
けれど、『クラスで一番可愛い子』(山中ヒコ/祥伝社)を手に取ると、少し違った角度から自分のコンプレックスと向き合えそうな気がした。
推しのイケメン俳優に近づきたくて整形手術を繰り返すけど…
本作の主人公・えりは、中学生の頃からミュージカルにハマり、舞台に出演しているイケメン俳優に夢中になった。特に心奪われたのは、甘いルックスで歌も上手い神田征。少しでも彼に近づきたくて、何度も出待ちをしたが、神田はいつも決まって困り顔で手を振ってくれるだけ。
その姿を見るうちに、えりは自分がもっとかわいかったら、振り向いてもらえるかもしれないと思うように。そこで意を決し、二重整形手術をしてみたものの、神田は変わらず塩対応。
もっと綺麗にならなければ…。SNSに溢れているかわいい子みたいに、いや、それ以上に綺麗にならなければダメなんだ――そう感じたえりは、かわいく生まれることができなかった悲しさと、ありのままの自分を愛してもらえない苦しみを抱きながらも、美容整形を繰り返す。
こうして別人のようにかわいくなると、神田の友人に近づくことに成功する。そしてついに、憧れの神田本人とも仲良くなることができた。そして、神田のやさしい性格を知るうちに、えりはますます彼のことを好きになっていく。だが、幸せな日々は長く続かず、えりは絶望の底に突き落とされてしまう――。
「人間は、顔じゃない」…そんな言葉は、自分の顔にコンプレックスを感じ続けている身からしてみれば、ただの綺麗事のように聞こえる。この社会は残酷だ。なんだかんだ言っても、外見で評価や待遇に差が生じている。「生まれ持った顔を大切に」と言われても、コンプレックスを抱えたままでは、ありのままの自分を見つめ生きていくことが難しく感じられる。
「かわいい」に執着したくなる気持ちは、美を持って生まれてきた人には分からないものだと思う。変えられない顔を蔑まれ、笑われるたび、自分はブスなのか、それとも普通程度なのかと悩みつつ、人目を気にして怯える日々は苦しみの連続だ。
そんな辛さから自分を救えるのならば、「整形」はひとつの選択肢になるのだと思う。たとえ、大金が必要だとしても、それをきっかけに自分のことを好きになり、生きやすくなれるのならば、その選択を止めたり、馬鹿にしたりする権利は誰にもないだろう。
だが、忘れてはいけないのは、整形で心は治療できないということ。綺麗になりたいと願う根底には、おそらく「自分を好きになりたい」という本音がある。だから、外見を変えるだけでなく、自分のダメな部分を許す練習も必要だ。完璧ではないけれども美しいという価値観が私たち人間にはある。そう思えたら、少しだけ呼吸がしやすくなるのではないだろうか。
なお、本作にはこの表題作の他にも「怪物の庭」や「バジリスクの道」という短編も収録されており、いずれも自分の在り方を深く考えさせられる。特に「バジリスクの道」は読了して作品名の意味が分かった瞬間に何とも言えない悲しみともどかしさが胸にこみあげてくると思うので、ぜひ読んでほしい。
人の心の闇を巧みに表現する3つの短編は、あなたの胸にどう響くだろうか?
文=古川諭香