「戦後レジーム」の問題点と21世紀にもたらした課題とは?/365日でわかる世界史⑩
公開日:2020/11/8
学校の授業や受験勉強で頭に詰め込んだ知識ではつかみきれなかった、世界史の全体像が見えてきます。1日1ページずつ読めば教養としての世界史が身につく1冊から、10ページでわかる世界史の大きな流れをご紹介します。
通史 10ページでわかる世界史の流れ⑩
「戦後レジーム」の問題点と21世紀の課題
第二次世界大戦で勝敗のめどがついてきたころ、フランクリン・ルーズベルトは、ヨシフ・スターリンがよき連合軍の一員として、英国と協調してヨーロッパの民主主義と秩序を守ってくれる。また、アジアは蒋介石を応援すれば安定する。植民地はゆるやかに自立して、旧宗主国の援助も受けながら発展していくだろうとひどい勘違いをしていた。
背景には、アメリカだけが核兵器を持つ状態が続くという楽観的見通しもあった。東西冷戦や中国の台頭というその後の戦後史を知る現代人にとっては、ほとんど信じられない夢物語だったし、そういう予想に基づいてアメリカが日本にある意味で善意で押しつけたのが憲法第9条である。
しかし、共産主義運動はプロレタリア独裁と世界革命を目指すことを譲らなかったし、ロシアの伝統的な国益からスターリンが自由であることなど一度もなかった。蒋介石と国民党の人望のなさや毛沢東が侮れないことも新しい発見ではなかったはずだ。
私は社会主義の役割を否定的にばかりは思わない。戦後の世界が社会福祉の充実とか、人種間の平等とか、植民地の独立とかを通じて公正なものになったとすれば、社会主義の勝利を避けたいという圧力があったからだ。
そんななかで、日本が西欧的民主主義と市場経済の枠内で、高度経済成長で先進国入りするモデルを示したことは、世界革命の必要性を説得力のないものにしたのであって、世界に対する比類なき貢献であった。
東西冷戦が終わったのちの世界は、EU(欧州連合)に代表される国際的な統合の推進によって普遍的な価値の追究が実現するかと思われたが、イスラム過激派が暴れ、難民は発生し、多国籍企業の不正はあとを絶たず、そして、中国は日本が130年前に実現した自由選挙を否定したまま世界のヘゲモニーの中心になりかねない状況である。
日本は1980年代におけるバブル経済の発生の傷跡から脱却できず、そもそも国民に人口減少や低成長から抜け出す意欲がない。
欧米は移民、難民問題で対応を誤ったと思う。かつて東西冷戦を終わらせたのは東欧の人々の脱出だが、それは東側諸国を自壊させるのに役立った。しかし、中東やアフリカや中南米からの難民脱出は独裁者たちにとって厄介払いになるだけで喜ばせている。また、欧米のキリスト教的な伝統的価値観は否定されるべきだが、イスラム教のそれは尊重されるべきだというのもなんともわかりにくいことだ。
教養への扉 日本は平成30年間の経済成長率が主要国中で最低で、GDP(国内総生産)は平成のはじめには中国の8倍だったが、いまや3分の1だ。国民は相変わらず経済成長に真剣に取り組むことを躊躇していたり、魔法のマクロ経済政策に期待する安直な思考に傾き、産業の競争力強化や教育の革新、先進的な情報化社会への移行という努力から逃げたりしている。