根底にある目標/富田美憂の「私が私を見つけるまで」③
公開日:2020/11/1
最終オーディションは、3社それぞれ別日に行うオーディションでした。
その中でも一番印象的だったのは、アミューズの最終オーディションの日のことです。
二次審査通過の連絡をいただいてから、私はさっそく三次審査の準備に入りました。
三次審査も二次審査同様、歌唱と台詞を披露して質疑応答をするという内容。
台詞は当日渡されたものを読むと聞いていたので、まずどの曲を歌うか考えます。
二次審査のときに歌った“Winter Blossom”がすごく好感触だったから同じ曲でいこう、と私は思っていたのですが、その時に父が「歌の印象がよかったならもしかしたらアップテンポな曲も歌ってくださいって言われるかもね。俺だったらもう一曲用意するかなぁ。」と口にしたんです。
この時私は「いや、1曲って言われたんだよ?」と思っていたんですが、この父からの助言にオーディション当日かなり助けられることになるんです。
そんなやり取りがあった中、最終オーディション当日。
まさか自分が二次審査を通過できると思っていなかったので、会場に行くまでの間すごくふわふわした気持ちだったのを覚えています。
会場に入ってみても、かなりピリピリした空気があって、その空気に負けそうでした。
2次審査に比べて更にお兄さんお姉さんばっかりでしたし、何より歌もセリフも抜群に上手くて。「きっとこういう人達が選ばれるんだろうな。私、場違いじゃないかな」とか思ってしまうくらい、緊張と不安がありました。ほんとに口から心臓が出そうでした。
私は昔から他人と自分を比べてしまう悪い癖があったので、その悪い癖がこの日はかなり出てしまっていたかな。
自分の番になって、審査員のみなさんがいる場所へ案内され、ステージに上がります。
当時、私は14歳。大人の方が目の前に沢山いて、ステージには自分1人。もともと人前に立つことが苦手だったし、あがり症な面もあったので正直怖かったです。そんな気持ちでいっぱいだったので、きっと震えながらオーディション受けていたんだろうなぁ。
今でも鮮明におぼえているんですが、台詞を披露したときに審査員の方から「どうして男の子をやろうと思ったんですか?」と聞かれたんですよね。
小さい頃から声が変わっていると言われていたから、自分の声は可愛くない声だと思っていました。それを審査員の方に伝えたんですが「そんなことないよ。素敵な声だから、きっとできると思いますよ」と言ってくれたんです。
大人の方にそんなこと言われたことなくて。すごくそれが嬉しかったです。
今となっては女の子っぽくてキラキラした可愛らしいキャラクターを演じさせていただくことのほうがむしろ多いので、私の可能性を見つけてくださったアミューズの方には感謝しかありません。
続いて歌の審査。ここで父の予想が的中します。
“Winter Blossom”を歌った後に「もうちょっと高いキーのアップテンポな曲って何か歌えますか?」と言われました。この時は「パパすごい」って思いましたね(笑)
オーディションってなんだかピリピリしていて、厳しい場所だと思っていたのですが、この日は全然そんなことなくて、私が歌を歌っている間は皆さんすごく柔らかい表情をしてくださっていたのを覚えています。
だから、この日のオーディションは「緊張した」というよりは「楽しかった」という気持ちで会場を出ることができました。
そして今、自分でこうやって振り返ってみて思うことがあります。
この日のオーディションで「どんな声優になりたいですか」と聞かれたときに「人の心を動かせるような人になりたい」という考えが最初に頭に思い浮かんだことでした。
それは本当に今も思っていること。自分の根底にあるそんな目標は今も全くブレずに持てていますね。
今まで自分が歌やお芝居で勇気をもらって、救われて、笑顔になっていたから。
だから今度は私がそれをする側になりたいってずっと思っていた。
このオーディションを境に、よりその思いも強くなっていました。
きっとこれから先何年経ってもその目標は変わらないものだろうし、この日のオーディションの経験、私という存在に可能性を感じてくれて、見つけてくれたアミューズの方々、そしてなにより両親には感謝してもしきれないなぁと思います。
この場をお借りして、改めてありがとうと伝えたいです。
(次回へ続く)