名門大学生たちの犯罪の裏に見え隠れする「半グレ」の影

社会

公開日:2020/11/2

半グレと芸能人
『半グレと芸能人』(大島佑介/文藝春秋)

 名門大を含め、大学生たちの間にいま、反社の影が見え隠れする。10月22日、持続化給付金200万円をだまし取った疑いで逮捕された男2人のうち、1人は西の名門、同志社大学の学生だった(時事通信ほか)。また、「警察はほかにも10人以上の大学生が給付金を不正に受給したとみて、実態の解明を進めている」(NHK)という。

 2019年2月には、やはり有名大の学生6名が、「女子大生をだまして風俗で働かせた」として逮捕されている。この詐欺犯罪に関しては、警察が「準暴力団」と位置づけて取り締まりを強化する、半グレ組織がその手引きをしていたことが、19年7月に放送されたNHKスペシャル「半グレ 反社会勢力の実像」の番組内でも明かされていた。

 昨今、相次いで集団暴行容疑で逮捕されている、大阪の半グレグループ「アビスグループ」メンバーたちの年齢を見ても、多くは20代前半で、大学生と同世代。半グレにとって大学生は、友達感覚で接近できる好都合な相手なのだろう。

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 半グレがアプローチするのは、もちろん学生ばかりではない。彼らがいかに、実業家や芸能人、著名人、政治家などとも接点を持ち、街に君臨しつつ詐欺や暴力事件に関与するか。そうした半グレの実態に迫るドキュメンタリーが『半グレと芸能人』(大島佑介/文藝春秋)だ。

 本書はまず、半グレグループとして名高い「関東連合」が絡んだ、歴代の数々の事件簿を軸に、半グレの実態を追う。

 2010年1月に起こった横綱(当時)、朝青龍引退の引き金となった「朝青龍事件」や、同年10月、世間を大いに騒がせた「市川海老蔵事件」。さらには、関東連合が事実上の機能停止状態へと自らを追い込んだ、人違い殺人として知られる2012年の「六本木フラワー事件」など、著者は、ワイドショートップを飾った事件の数々の裏に蠢く人間模様を、暴いていく。

 ちなみに著者は、『週刊ポスト』を経て、文春砲でおなじみの『週刊文春』で2019年まで記者を務めたジャーナリスト。本書では、文春砲がつくられる裏側などにも触れていて、記者にとって半グレネタは、決して、楽でも、美味しい仕事でもないこともよくわかる。

 というのも、ヤクザに戦闘部隊と知能犯ともいうべき経済ヤクザがいるのと同様の構造が、半グレ組織にもあるからだ。

 例えば、「市川海老蔵事件」を巡っては、スクープを何とか引き出したいメディア各社に対して、メディア業界や芸能界に強い半グレ人材が動くことで、独自に情報操作を行ない、結果、真実をけむに巻く術にもたけていることを本書は伝えている。

 他にも、多くの半グレグループ、芸能人や著名人、財界人、さらには政治家なども実名や匿名で登場するが、そのひとつに世間を驚かせた、安倍首相(当時)主催の「桜を見る会」に半グレグループ「強者(つわもの)」の創設者「Y」(本書表記、今年6月23日に逮捕)の存在がある。

 半グレはあくまでも「半分グレーなアウトロー」であり、ヤクザのようにカタギ社会と決別するわけではなく、代紋を掲げた行動もしない。それだけに、自在に一般社会に溶け込み、コネクションを拡げ、桜を見る会にだって出られるのである。

 警察への組員名簿の提出が義務付けられたヤクザ組織と違い、どこの誰が半グレメンバーなのか、警察はもちろん、グループ内でも正確に把握などはできない。そして、間違った相手だろうと人を殺すことに躊躇もない。

 そんな不気味かつ凶悪な集団が、いまじわじわと日本社会に拡がりつつある。そんな現実をぜひ、本書で確かめてみてほしい。

文=町田光