本にかけられた魔術…本の世界に飲み込まれていく街を救う少女たちの冒険! 森見登美彦も推薦!
公開日:2020/11/7
本好きなら誰でも一度は「物語の世界の中に実際に入り込んでみたい」という願望を抱いたことがあるだろう。そんな夢を叶えるような本がある。その本とは、『この本を盗む者は』(深緑野分/KADOKAWA)。本の世界を冒険する少女たちのファンタジー小説だ。
主人公は、女子高生の御倉深冬。深冬の曽祖父で書物蒐集家の御倉嘉市が設立した「御倉館」は、彼女の住む街・読長町の名所だ。この街が「本の街」と呼ばれ、あらゆる本屋が立ち並ぶようになったのも、この「御倉館」のため。本好きならば、羨ましく思える家系だが、当の深冬は本が大嫌いで、何年も本を読んでいない。
そんなある日、「御倉館」から蔵書が盗まれ、深冬は残されたメッセージを目にする。“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”。すると、たちまち、読長町は本の物語の世界に侵食されてしまった。突然目の前に現れた謎の少女・真白は言う。
「御倉家の本——現在二十三万九千百二十二冊、そのすべてに“ブックカース(本の呪い)”がかかっているの」
どうやら、本が盗まれたことで、とんでもない呪いが発動してしまったらしい。泥棒を捕まえない限り、街が元に戻らないことを知った深冬は、真白の力を借りながら、物語の世界を駆け抜けることになる。
雨男と晴れ男の兄弟を巡る話。私立探偵が拳銃を手に陰謀に挑む話。銀色の巨大な獣を巡る話…。深冬たちが旅する本の世界は、どれも刺激的だ。読めば、たちまち、2人と一緒に物語の世界に入り込んでしまったかのような気分にさせられる。本好きはもちろんのこと、本を今まで読んだことがなかったという人も、彼女たちの冒険には、興奮させられるに違いない。
御倉家の血筋に生まれた深冬の葛藤も本書の魅力だ。深冬が本を嫌いになってしまったのは、疑り深い性格だった祖母・たまきのせいだった。たまきは深冬にいつだって、「あんたは御倉の子なんだからね」と声をかけ続け、たくさんの本を次々に押し付けてきたのだという。祖母に限らず、街の人たちからも、御倉の人間というだけで、過度な期待と羨望にさらされる。本好きであって当然と思わされ、誰よりも「本の虫」であることを求められる。本来楽しいはずの本を読む行為を強要され続けた結果、すっかり本嫌いになってしまった深冬。だが、彼女は、真白と出会い、ともに冒険する中で、少しずつ本を読むことの楽しさに気づいていくのだ。
この本にも、「御倉館」の本のように、きっと何らかの魔術がかけられているに違いない。本を開けば、物語の中から抜け出せなくなる。このスリリングな世界をずっと冒険していたいと思わされる。そして、読み終えた今も、その余韻から抜け出せない。ああ、本を読むことは、こんなに楽しいことだったのか。この本は、それを改めて教えてくれた。そんな素敵な魔術を、あなたもぜひ体験してみてほしい。
文=アサトーミナミ