避難所に連れて行くのはNG!? 災害時に大切なペットの命を守る“ペットのための防災訓練”とは?

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公開日:2020/11/10

防災

 地震や水害が起こったとき、自治体が支援してくれるのは被災者だけ。大切なペットを守れるかどうかは、飼い主の防災意識にかかっています。災害レスキューナースとして25年間被災地での救助を経験し、猫を3匹飼っている辻直美さんにペットの防災についてお話を伺いました。

「まず、飼い主に知っておいてほしいことは、避難所は基本的にペットの持ち込みがNGだということ。避難所にはさまざまな人が集まるので、誰かが動物アレルギーを持っていることもあります。また、鳴き声や臭いがトラブルの原因になる可能性もあるからです。もしゲージに入れて一緒に避難してきたとしても、ペットを避難所に入れることは断られると心得ておきましょう。

 最近は自治体によってペットを受け入れる避難所もあるようですが、数がとても少ないのが実情です。そのため、避難所に連れて行かないことを前提として、飼い主さんがペットのためにできる防災は大きく2つです。

①自宅に置いて行っても生きられる備えをしておく
②ペットの避難先を確保する

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 この2つを何も起きていないうちから備えておけるかどうかが、大切なペットの命を守るためのポイントになります」

①自宅に置いて行っても生きられる備えをしておくというのは、飼い主が避難所で過ごす間家に帰らなくても、ペットが自分で餌を食べて暮らせるようにしておくという意味です。そのために有効なのが、ペットのための「防災訓練」。我が家にも猫が3匹いますが、飼い始めたばかりの頃は週に1回のペースで行っていました。

 防災訓練といっても大げさなものではなく、いつもはお皿に出して与えている餌を、あえて袋のまま出して自分で袋を裂いて食べるように促したり、給水器が停電で止まった想定でキッチン、玄関、風呂場などに置いた深皿を探させてそこから水を飲ませたりします。餌を与えられることに慣れてしまっているペットに、自分で餌を探して食べることを覚えさせましょう。何度か繰り返してペットが身につけてしまえば、頻繁に行わなくても大丈夫です」

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「自動給餌器には3週間分の餌をセット。さらに3カ月分の餌を備蓄しています。餌はペットでも袋が破りやすいものを選びますが、私が自宅にいるときに被災した場合は袋を裂いてから家を出るつもりです。食べたことのない餌は手をつけてくれないことがあるので、必ず食べなれたものをストックしています。

 予期せぬ災害が起きたときに気が動転するのは、ペットも人間と同じです。不安で寝不足になったり、餌を食べなくなったりして弱ってしまう可能性も考えられます。だから、普段からいろいろなメーカーのものを食べさせています。また、安心できる環境を作っておくことも大事。私は段ボールや100円均一のミニたらいにタオルを入れたものをいくつか用意して家のあちこちに置いています。日ごろからそこで過ごすので、臭いが染みつき、体に馴染んで、いざというときにも“安心できる場所”としてペットの心を鎮めてくれます」

②ペットの避難先を確保するは、洪水で家が浸水することが予想される場合や、地震で家が倒壊した場合など、家にペットを置いて行けないときの一時避難先を確保するという意味です。避難所には連れて行けないので、飼い主同士で協力し合って「自主避難グループ」を作りましょう。ある飼い主が被災したら、別の飼い主の家にペットを預ける助け合いでペットを守るためのグループです。お散歩コースでよく会う飼い主仲間と組むのもいいですし、SNSで探してもOK。

 私が所属しているグループでは、被災時の餌代用にグループで作った銀行口座に月2000円ほど積み立てをしています。いざというときには避難先になった飼い主が引き出して使える仕組みです。万が一のときにどうしたらペットを守れるかを話し合う仲間がいるというのは心強いものです。

 ①で触れた“安心できる場所”としての段ボールやミニたらいは、②の一時避難の際にも活躍します。被災時に興奮して暴れるペットを使い慣れていない移動用ゲージに入れるのは一苦労。ペットと格闘するうちに、避難が遅れてしまう恐れもあります。日ごろから居ついている段ボールやミニたらいに怖がって逃げ込んでくれたところを、そのまま大きな布で包んで連れ出せば簡単です。預け先でもペットの安心できる場所になってくれて、一石二鳥です」

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「段ボールにTシャツをかぶせて作ったペットの居場所。中にはタオルの下にペットシーツを仕込み、爪とぎをセット。爪とぎにはまたたびをかけて、猫が段ボールに出入りしやすくなるように工夫してあります」

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「シーツなどの大きな布で包んで両サイドを結び、段ボールが動かないように固定。さらに両端を段ボールの上で結んで持ち手を作れば楽に運べます」

 大切なペットの命を守るために必要なのは、まだ何も起こっていないときの備えです。2つのポイントを押さえつつ、ペットの防災について考えてみてくださいね。

取材・文=箕浦 梢 画像提供=『レスキューナースが教える プチプラ防災』(扶桑社)