薄い壁の隣室からゾクっとするような不審な物音…もしも隣人が恐ろしい連続殺人犯だったら?

文芸・カルチャー

更新日:2020/12/1

『隣はシリアルキラー』(中山七里/集英社)

 壁を1枚隔てた隣人は近いけれども、遠い存在。隣で暮らす人の素性や人柄をよく知らないという方は読者の中にも多いのではないだろうか。その隣人が、もし自分の知らない一面を持っていたとしたら…。『隣はシリアルキラー』(中山七里/集英社)は、そんな身近にあり得る恐怖を題材にしたホラーミステリーだ。

隣の部屋から聞こえる「不気味な音」の正体は…?

 神足友哉は数日前から、隣人の徐浩然(スー・ハオラン)が立てる深夜のシャワー音にストレスを感じていた。徐は、同じ会社に勤める外国人技能実習生。2人は共に薄い壁の社員寮で暮らしている。

 こんな遅くにいったい、何をしているのか。疑問に思い、神足が耳を澄ませると、何かを切断しているような音も聞こえてきた。まさか浴室で人体を解体し、血を洗い流しているのではないか――そんな血なまぐさい想像が頭に浮かび、ゾっとした神足は連日、寝不足に。

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 そこで意を決し、徐に注意をしたが、イマイチ納得してもらえない。その反応を歯がゆく思った神足は、禁断の質問を投げかけてしまう。

“いったい、あんな時間に風呂場で何をしているんですか。まるで死体をバラバラにするような音だけど”

 その途端、徐の表情は一変。以降、神足は徐からの視線を感じ、恐怖を抱くようになってしまう。

 そんな時、近所の埋め立て地で腿から切断された女性の両足が見つかる。実は、神足が住む周辺では以前にも切断された女性の一部が発見されていたため、警察は連続殺人事件とみて、捜査し始める。

 そして、悲惨な事件に世間が驚愕している最中、またしても徐の部屋から不可解な物音が…。それは何かを袋に梱包するような音だった。気になった神足は、外出する徐を尾行。行き着いた先は、とある工場の廃棄槽。その中に徐が捨てたものを見てみると、なんと人の腕だった。

 隣に住んでいるのは、連続殺人犯だ。そう確信した神足は誰かに身を守ってほしいと思うものの、彼には警察には頼れない“ある事情”があった…。そうこうしているうちにも魔の手はすぐ近くに迫り、新たな被害者も。神足はより一層、恐怖を感じるようになっていく――。

 本作は、自分もまるで連続殺人犯に追われているかのような緊迫感がジリジリと味わえるスリル満点の1冊だが、ドキドキするようなストーリー展開でありながら、心にじんわりと染み入るような描写も多数盛り込まれている。ただのミステリー作品で終わらせるのではなく、現実の社会問題をさりげなく取り込み、読み手に何らかの「問い」を投げかけるところが中山さんらしい。

 人が人を想うことの重みを考えさせられたり、企業から不当な扱いを受けやすい外国人技能実習生の実情に思いを馳せたりと、サスペンス以外の部分が胸に刺さることも多く、ハっとさせられる。神足がひた隠しにしようとしている真実を知ると、物語の見え方が変わってくるのも、本作のおもしろいところだろう。

 果たして、隣人の徐は本当に凄惨な事件を起こしているシリアルキラーなのか。そして、神足が抱える「誰にも言えない秘密」とはいったい――。

 神足と警察の両方の視点を交えつつ進行していく本作は、全編疾走感満載。衝撃の結末を、ぜひその目で見届けてほしい。

文=古川諭香