最初の一歩/富田美憂の「私が私を見つけるまで」④
公開日:2020/11/15
オーディション当日に「合格した方には後日お電話でご連絡します」という話があったので、最終オーディションが終わってからというもの、家の電話が鳴るたびに、びくっとするような期待とヒヤヒヤした気持ちで頭の中はいっぱいでした。
何週間か経って、私が学校から帰ったタイミングで家に見知らぬ番号から電話があり、なんだろうと思いつつ受話器を取ると、「富田美憂さんはいらっしゃいますか」と男の人からの電話。
「私です」と答えると、「声優アーティスト育成プログラムセレクションですが、アミューズさんで合格です」と言われました。生きてきた14年間で1番嬉しかったんじゃないかと思うくらい、膝から崩れ落ちるくらい嬉しくて、泣きながら家族に報告しました。この時母が自分の事のように喜んでくれて、抱きしめてくれたのを覚えています。同時に、「私も誰かに認めてもらえるのかもしれない」という期待が自分の中で生まれたんです。
合格通知から更に数週間後、アミューズの方と直接会ってお話する機会がありました。
今後についての話をする為です。
この時はあまり東京に馴染みもなかったので、母と2人で渋谷の待ち合わせ場所に、とにかくハラハラしながら向かいました。
待ち合わせ場所にはアミューズの方が2人。そのうちの1人は今もお世話になっているチーフマネージャーの方でした。
席に案内されて、「ひとまず飲み物を注文しましょう」という話になって、私はココアを頼んだのですが、ほんっとうに緊張しすぎて最初から最後まで一口も飲めなかったなぁ…笑
いざ合格をいただいたものの、合格者は無料で1年間のレッスンが受けられるとオーディションの募集概要に書いてあったので、これからどんなレッスンがあるんだろう、そういう話をこれからするんだろうな、と思っていました。
でも、話し始めてすぐにアミューズの方が鞄から出したのは、事務所所属の契約書でした。
びっくりしました。
だってそもそも所属のオーディションではなかったし、ましてや自分なんかが誰もが知るようなアーティストや役者の方がたくさんいる大きな事務所に所属できるとは思っていませんでしたから。
母が「娘のどこをいいと思ってくださったんですか」と聞くと「すごくいい声だと思いますし、歌が素晴らしいです」とアミューズの方は言ってくれました。
そんなふうに言ってもらったのは初めてでした。
この時初めて誰かに認めてもらえた気持ちになりました。
「初めてのことばかりで不安もたくさんあるかと思いますが、これからお芝居も歌も一緒に頑張っていきましょう」と優しく声をかけてくださって、この事務所で声優として頑張っていきたい、という気持ちも生まれたんです。
この日から「この事務所で立派な声優になりたい」という気持ちが自分の中で明確になったなと思います。
お話を終えて家に帰ったあと、父に「所属だって!」と伝えたら、本当にひっくり返る勢いで「は!!!????」と驚いていたのをよく覚えています。家族みんなが自分のことのように喜んでくれました。
この日から、小さい頃夢に見た「声優になりたい」という夢に大きく自分が近づき始めているなぁと、強く感じ始めていました。
(次回へ続く)